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【閉院】医療機関の閉院と事業承継|後継者がいない場合の対処法を弁護士が解説

2024.07.22

医療機関の廃業の状況

令和5年中に、倒産に至らない状態で閉院(休廃業・解散)した医療機関の件数は過去最多でした。内訳は、病院19件、診療所580件、歯科診療所110件で、10年前に比べ2倍以上に増えています。

院長の高齢化と後継者不足が背景にあり、今後も休廃業・解散件数は増加すると予想されています。

(帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」動向調査(2023年)」参照)

個人運営の医療機関の閉院手続き

閉院手続きは、医療機関の運営主体が、個人か医療法人かで手続きが異なります。

まず、法人化していない個人運営の医療機関を閉院する場合には、職員との労働契約の解消賃貸借契約等の解除行政機関への各種届出を実施することになります。

労働契約の解消

閉院に伴いスタッフに辞めてもらわなければなりませんが、後にトラブルにならないように、事前に閉院予定であることやその理由を伝え、スタッフの理解を得ることが重要です。

そのうえで、各職員に合意退職してもらうか、30日以上前に解雇予告通知をして解雇することになります。解雇予告から解雇までの日数が30日未満であっても、不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで、解雇することができます。

各種の契約解除

賃貸借契約の解除

賃貸物件で運営しているクリニックでは、賃貸借契約の解約が必要になります。

賃貸借期間満了により終了する場合には、期間満了の1年から6カ月前までの間に貸主に対して契約更新をしない旨通知をします。

他方、期間満了前に中途解約する場合、賃貸借契約書の中途解約条項に従って中途解約を行います。賃借人からの中途解約は、一般的に解約予告期間が設定されており、事業用賃貸物件の場合には3~6か月が相場です。

借主は、退去時に賃貸物件の原状回復義務を負います。基本的には、通常の使用による損耗や経年劣化については、借主に回復義務はありません。ただ、原状回復義務の範囲を巡ってトラブルになる場合には、弁護士と相談しつつ貸主と協議をするとよいでしょう。

医療機器・事務機器等のリース契約の解除

医療機器、事務機器等のリース契約は、原則として中途解約できないファイナンスリースが多いですが、この場合には、残リース料又はその相当額の違約金を支払って解約することになります。

また、リース期間終了後に機器の所有権を取得しない所有権移転外リースであれば、機器をリース会社に返還します。

各種届出

廃業に必要な届出は、次のとおりです。

 

院長が死亡した場合には、次の届出が必要になります。

その他、労務や税務関係の届出も必要となります。行政書士や税理士のサポートを受けながら手続きを進めるとよいでしょう。

医療法人の場合

医療法人を廃業するには、医療法人を解散し、債権債務の清算手続きを経て、法人格を消滅させます。

医療法人の解散

まず、法人の解散は、自由にできるわけではなく、医療法の定める解散事由に従う必要があります(医療法55条1項)。

次の図のとおり、解散事由ごとに必要な手続きが異なります。


 【図】医療法人の解散事由、手続

解散事由 備考 手続き
⑴定款で定めた解散事由の発生 医療法の解散事由以外の解散事由を定款で定めることができます。 都道府県知事に解散届を提出
⑵目的たる業務の成功の不能 客観的に目的達成が不能となった状態です。 都道府県知事の解散認可
⑶社員総会の決議 原則、総社員の4分の3以上の賛成が必要です。 都道府県知事の解散認可
⑷他の医療法人との合併 合併により、存続しない医療法人は消滅します。 都道府県知事の合併認可
⑸社員の欠員 社員の死亡・退社により、社員が1人もいなくなった状態です。 都道府県知事に解散届を提出
⑹破産手続開始決定 債務超過の場合、理事長の破産申立等により手続きが進みます 裁判所の破産手続
⑺設立認可の取消し 医療法の違反などにより、認可が取り消された場合です 都道府県知事の設立認可の取消

 

医療法人は地域医療提供体制を担っていることから、都道府県知事の認可を要する解散事由(上記⑵目的達成不能、⑶社員総会の決議)については、自己都合的な理由では認可されない可能性があるので注意してください。

清算手続き

合併と破産以外の解散事由が生じた場合には、清算手続きが必要になります。

この清算手続きでは、清算人が、医療法人の債権を回収したうえで、債務を弁済し、残った財産を定款で定めた国、地方公共団体などに引き渡すことになります。

清算人には、医療法人の理事が就職するのが原則ですが、定款や社員総会で理事以外の者を選任することも可能なため、外部の弁護士を選任して清算事務に当たらせることもできます。

医療法人の清算手続きの流れの概略は次のとおりです。

①解散、清算人の登記

 

②債権申出の官報公告

2か月以内に3回以上の官報公告をする必要があります。

③現務の結了

従業員の解雇、各種契約の解除、リース中の医療機器の返却、各種届出を行います。

④清算事務

解散した医療法人は、債権を回収し、資産を換価して、債務の弁済を行います。

ただし、債務の完済ができなくなったときは、理事は破産申立てをしなければなりません。

⑤残余財産の引渡

清算事務により債務を弁済しても資産が残る場合、その残余財産は、定款・寄付行為に定められた帰属先に帰属させ、定めがなければ国庫に帰属させることになります(医療法56条)。

そして、平成19年4月1日以降に設立された持分なし医療法人については、定款又は寄付行為で残余財産の帰属先を定める場合、帰属先は、国、地方公共団体、公的医療機関の開設者、持分なしの社団・財団医療法人等に限定されます(医療法44条5項、同法施行規則31条の2)。持分なし医療法人では、非営利性が徹底されており、出資者を帰属先に指定できません(そもそも出資持分も存在しません)。

他方で、従来の持分の定めのある社団医療法人については、定款・寄付行為に定めていれば、残余財産の帰属先を出資持分権者にすることができます(旧医療法56条・附則10条2項)。ただ、このような取扱いはあくまで当分の間の暫定措置とされており、今後の法改正次第では、持分あり社団医療法人の残余財産の帰属先が制限される可能性はあります。

⑥清算結了の登記・届出

清算の結了により、医療法人は消滅します。

記録の保存義務

医療機関の閉院後も、医療機関の管理者は、カルテについて5年間保存する義務を負います(医師法24条、歯科医師法23条)。管理者は、一般的に院長を指しますが、院長の急死で閉院するなど管理者たる医師がいない場合には、県または市などの行政機関において保存するのが適当とされています(昭和47年8月1日医発第1113号)。

電子カルテなどであれば保存は難しくありませんが、紙媒体の場合には、保管場所を確保しなければなりません。紙媒体のカルテをスキャンして電子化して保存する場合は、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の遵守事項に従えば、紙媒体の原本は破棄しても差し支えないとされています。

その他法令上保存が求められる書類は複数あります。閉院前に弁護士などの専門家に各書類の保存義務を確認しておくとよいでしょう。

事業承継・М&Aの検討

以上のとおり、医療機関の休廃業・解散手続きは相当な労力がかかり、簡単には閉院できません。また、医療過疎地域の医療機関が閉院するとなれば、地域の医療提供体制が危ぶまれる事態になってしまいます。

ですので、後継者がいない場合であっても、閉院前に承継ができないかご検討してみてください。

承継先候補を探す方法としては、医師会や税理士、取引先金融機関、М&A支援業者と連携することが考えられます。

また、医業承継に携わっている弁護士も、代理人として承継先候補を探索し、マッチングにつなげることができます。早期に弁護士のサポートを受けることで、候補者が決まった後の各種契約書作成や法務デューデリジェンス対策も円滑に実施できます。

 

当事務所では、医療機関の事業承継に注力しておりますので、医療機関の廃業、解散、承継をご検討されておられましたら、ぜひお問い合わせください。

【医療機関の倒産に関するコラムはこちら】

 

 

 

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