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【広告規制】景表法に基づくステマ規制が医療業界にも!医療機関で注意すべき広告規制

2024.07.09

医療法人が初のステマ規制違反に基づく行政処分の対象に

令和6年6月に、消費者庁は、インフルエンザ予防接種を受けに来た患者に、Googleマップの投稿欄に「★★★★★」(星5)又は「★★★★」(星4)の高評価を投稿することを条件に予防接種費用を割り引いていた都内の医療法人に対して、景品表示法で規制されているステマ表示をしていたとして、措置命令を下しました。

ステルスマーケティングとは、事業者の宣伝であることを隠して、第三者がその事業者の商品・サービスを宣伝する広告手法です。

ステマ表示は、事業者が中立的な第三者の評価のように欺く行為であり、令和5年10月1日から景品表示法による規制対象となっています。

残念なことに、初のステマ規制違反に基づく行政処分の対象が医療法人となってしまい、医療業界に波紋を広げています。

ところで、医療機関の広告については、医療広告ガイドラインの策定により、院外の看板やホームページが法規制の対象になることは周知されていますが、口コミサイトのレビューやSNSが法規制の対象となることはあまり知られていないのではないでしょうか。

近年のデジタル化の進展により、医療機関の広告もSNSや動画配信サービスを活用するなど多様化しており、これらに対応する法整備も進められています。

広告規制に対しては、「知らなかった」という弁解は通じませんので、現在の医療機関に対する広告規制を確認しておく必要があるでしょう。

規制の枠組み

医療業界では、医療サービスに関する広告について医療法上の広告規制が適用され、医薬品、医療機器等の広告について薬機法の広告規制が適用されます。

ただ、これらの規制に違反しなくても、一般的な広告を規制している景品表示法に違反する場合もあります。

【広告規制の全体図】

医療法上の広告規制

まずは、医療法上の広告規制の内容を確認します。

医療は患者の生命・健康に関わるものなので、不当な広告で集患し、不適切な医療を施せば、その被害は甚大です。

それに、医療は専門性が高いため、一般の方が医療機関の広告の適否を判断することは簡単ではありません。

そのため、医療法は、医療機関の利用者を保護する観点から、医療機関の広告を他業種に比べて厳格に規制しています。

広告の規制内容は、「医療広告ガイドライン」で詳細に定められています。

また、ウェブサイトにおける広告違反事例は「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」で分かりやすく解説されています。

広告可能な事項の制限

原則として広告可能事項以外の記載は禁止

医療機関が広告できる事項は、原則として、次の事項に限定されています(医療法6条の5第3項)。 

したがって、院外の看板、電車の吊り広告、折り込み広告、雑誌、新聞、テレビCM、ネット上のバナーなどの広告において、以下の事項以外の内容を記載すれば違法となります。

①医師又は歯科医師であること
②診療科目
③名称、電話番号、所在の場所を表示する事項、管理者の氏名
④診療日又は診療時間、予約診療の実施の有無
⑤法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院等
⑥医師少数区域経験認定医師であること
⑦地域医療連携推進法人の参加病院等であること
⑧病院等における施設、設備に関する事項、従業者の人員配置
⑨医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴、厚生労働大臣が定めた医師等の専門性に関する資格名
⑩医療相談、医療安全、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置、病院等の管理又は運営に関する事項
⑪紹介可能な他の医療機関等の名称、共同で利用する施設又は医療機器等の他の医療機関との連携に関すること
⑫診療録等の診療記録に係る情報提供、入院診療計画等の医療に関する情報提供に関する内容等
⑬病院等において提供される医療の内容に関する事項
⑭手術、分娩件数、平均入院日数、平均患者数等、医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定める事項
⑮ その他①~⑭に準ずるものとして厚生労働大臣が定めるもの

例えば、院外の看板に「糖尿病科」「認知症科」など法令上認められない診療科名を記載することは、上記②に抵触します。 

「医療広告ガイドライン」に、これらの事項の記載例や注意点が詳細に記載されているので、ご参照ください(厚生労働省「医療広告ガイドライン」)。

医療機関のウェブサイトの例外規制(限定解除)

医療機関のウェブサイトも、平成30年の医療法改正により広告規制の対象となっています。

ただ、ホームページ等は、他の広告媒体と異なり、患者が情報を求めて自主的に閲覧するものなので、上記のように記載事項を限定すると、医療選択のための情報提供が不十分になりかねません。

そこで、医療機関のウェブサイト等については、一定の要件を満たした場合に、上記の広告可能事項の限定が解除されます。

①ウェブサイトその他これに準ずる広告(ただし、適切な医療選択に資する情報で、患者等が自ら求めて入手する情報を表示するもの)
②表示内容を照会するための問い合わせ先を記載すること(電話番号、メールアドレス等)
【自由診療の場合は③、④の要件も必要】
③自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
④自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

なお、ネット上のバナー広告は、患者の意思とは無関係に表示されるため、患者自ら求めて入手する情報とは言えず、限定解除の要件を満たしません。

広告禁止事項

広告可能な事項を記載していても、以下の広告は、患者等の適切な医療選択を阻害するため、禁止されています。

①虚偽広告
これは表示された内容が事実に反する広告です。
例)「どんな手術も成功させます」などの医学上あり得ない内容の広告
  「医療脱毛患者満足度99%」などのデータに基づかない広告

②比較優良広告
これは自らの医療機関が他よりも優れているように表示する広告です。
例)「最高の医療を提供しています」などの最上級の表現を用いる広告
  「モデルの○○さんが当院に来院されました」などの著名人が患者であるとの広告

③誇大広告
必ずしも虚偽ではないものの、事実を不当に誇張したり、人を誤認させる広告です。
例)殊更「医療広告ガイドライン」を遵守していると強調する広告
  「○○手術の実績はのべ1500件を超えています」などの手術に係る期間が併記されていない広告

④公序良俗に反する内容の広告

⑤治療の体験談に関する広告
治療内容・効果に関する体験談は、個々の患者の状態により当然にその感想は異なるため、誤認を与える恐れがあるとして認められていません。
例)口コミサイトから高評価の口コミを自院のウェブサイトに転載した広告

なお、冒頭の事例では、患者に高い星評価を依頼したに過ぎず、体験談を依頼したものではないため、医療法ではなく、景品表示法の規制が適用されたのだと思われます。

もし、Googleマップに高評価の口コミ(体験談)の投稿を依頼していれば、医療法上の広告規制にも違反する恐れがあります。

⑥誤認のおそれのある治療の前後の写真等の広告
いわゆるビフォーアフター写真については、個々の患者の状態により当然にその結果は異なり、誤認を与える恐れがあるため、必要な説明が付されていなければ認められません。
例)痩身治療ビフォーアフター写真のみ記載され、治療内容・費用、主なリスク・副作用に関する説明が不足している

医療広告にあたらないもの

医療広告は、患者の受診等を誘引する意図があり(誘引性)、特定の医療機関や医師の名称を特定できる(特定性)ものです。
次の媒体は基本的には、誘引性がないので医療広告には該当しません。

・学会で発表される学術論文
・院内掲示
・医療従事者の求人広告

医療法上の広告規制に違反した場合

行政指導、行政処分、刑事告発

医療法、医療広告ガイドラインに違反する疑いのある広告をしている医療機関には、都道府県等から指導又は措置を受けます。

①任意調査・行政指導
まずは任意調査として説明を求められ、違反が確認されば、行政指導により広告の中止、内容の是正を求められます。

②報告義務・立入調査
任意調査を拒んだ場合や、任意の説明や提出書類に疑義がある場合などには、必要な報告を命じられたり、立入検査を受ける恐れがあります。

③中止命令・是正命令
違反広告に対する行政指導に従わない場合や違反を繰り返す場合には、広告の中止命令又は是正命令を受けます。
なお、中止命令・是正命令が実施されると、原則として事例が公表されます。

④刑事告発
虚偽広告をした場合や中止命令・是正命令に従わなかった場合には、懲役6カ月又は30万円以下の罰金に処される恐れがあります。

ネットパトロール

平成29年からは、医療機関の不適切なウェブサイトがないか監視するために、ネットパトロールが実施されています。

令和4年度には、768サイトの広告規制違反が指摘されており、特に美容と歯科の分野の違反が目立ちました。

医療法上の広告規制のまとめ図

景品表示法上の表示規制

規制内容

医療法上の広告規制に抵触しなくても、景品表示法に抵触する広告もあります。

景品表示法は、商品・サービスの品質、内容、価格等について一般消費者が誤認するおそれのある表示を規制しています。

この「表示」とは、インターネット上の表示(ウェブサイト、SNS投稿、ポータルサイトの口コミ)だけでなく、看板、新聞、テレビなどの商品・サービスに関するあらゆる表示媒体を指します。

景品表示法で規制される表示は、大きく分けて3つの種類があります。

①優良誤認表示
実際よりも良い商品・サービスと誤認され、消費者の選択に影響を与える表示。
例)受験予備校のパンフレットに、「看護医療系全国一の合格率:大学91%、短大92%、専門学校97%」と、実際の合格率以上の架空の数値を表示すること。

②有利誤認表示
実際よりも価格等がお得と誤認され、消費者の選択に影響を与える表示。
例)美容皮膚科のホームページに、50,000円で提供したことがないサービスを、「通常50,000円→25,000円」と表示すること

③指定告示に基づく不当表示
優良誤認、有利誤認以外に、消費者が誤認する恐れのある表示は、不当表示として指定されています(指定は告示で行われます)。
・おとり広告に関する表示
・有料老人ホームに関する表示 
・ステルスマーケティング  など

なお、優良誤認と有利誤認は、医療法上の広告禁止事項とも重複する部分もあり、いずれにも違反する場合もあります。

ステマに関する不当表示

では、冒頭の事例で問題になった、ステマ規制の内容を詳しく見ていきましょう。

消費者は、事業者の広告であれば、ある程度の誇張・誇大が含まれていることを前提に、商品選択が可能です。

他方で、事業者ではない第三者の表示であれば、誇張・誇大が含まれているとは通常考えません。

そのため、事業者の広告であることを隠して、第三者が商品・サービスの宣伝をするステルスマーケティングは、消費者の適切な商品・サービス選択を誤らせるおそれがあり、不当表示として規制されました。

不当表示であるステマに当たる例

不当表示に当たる可能性のある表示は、次のとおりです。

ただし、表示上に「広告」「宣伝」「PR」などの文字を分かりやすく記載するなど、事業者の表示であることが明らかなものは、ステマとはいえず、景品表示法に違反しません。

①事業者が第三者になりすまして行う表示
例)歯科医院の従業員が、競合の歯科医院の診療サービスが自院の診療サービスよりも劣っているなどの誹謗中傷をSNSや口コミサイトに投稿する場合

②事業者が明示的に第三者に依頼・指示をして表示させた場合
例)美容皮膚科医院がインフルエンサーに商品の特徴などを伝えた上で、インフルエンサーがそれに沿った内容をSNS上や口コミサイト上に投稿する場合

③事業者が、黙示的に第三者に表示させたといえる場合
事業者が第三者に明示の依頼・指示をしていなくても、次の実態を踏まえて、ステマと判断される場合があります。

・事業者と第三者のやり取り(メール、口頭など)
・第三者への対価の有無、内容(金銭・物品に限らず、その他の利益も含まれます)
・事業者と第三者との関係性(過去に対価を受けていないかなど)
例)美容整形外科医院が、インフルエンサー等の第三者に対し、経済上の利益があると言外から感じさせたり、言動から推認させたりして、第三者がその医院のサービスについて投稿を行った場合

冒頭の事例では、医療法人が患者に明示的にGoogleマップの高い星評価を投稿するよう依頼していたので、不当表示としてのステマに該当すると判断されたと言えます。

不当表示であるステマにあたらない例

事業者が第三者の表示に関与したとしても、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合には、不当表示としてのステマには当たりません。

例)
・患者が自主的な意思に基づき、口コミサイトのレビュ―機能を通じて受診に関するレビューを投稿した場合
・患者が、自主的な意思に基づき治療効果をSNSに投稿をする場合

ただし、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるかは、様々な事情を考慮して判断されるため、適法・違法を線引きできる明確な基準があるわけではありません。

医療機関が、第三者の表示に関与する場合には、法律の専門家に意見を求めるべきでしょう。

景品表示法に違反した場合

行政指導、調査、行政処分、刑事罰

①行政指導・任意調査
景品表示法の違反事例については、基本的には消費者庁が担当し、事業者に対して、必要な指導・助言を行います。例えば、警告メールで是正を促したり、優良誤認の場合には表示内容の裏付けとなる資料の提出を要求したりします。

②措置命令 
指導に従わなかったり、表示の裏付け証拠が出せなかった場合には、事業者に対して、以下のような措置命令を実施します。
・不当表示の差止め
・違反事例の公表
・再発防止策の策定 など
なお、ステマ規制違反の場合、事業者は措置命令の対象となりますが、第三者は措置命令の対象になりません。

③課徴金納付命令
優良誤認表示、有利誤認表示に対しては、売上に対して係る課徴金の納付を命じられる恐れもあります。これは、医療法上の広告規制にはない制裁です。

④刑罰 
故意に優良誤認表示、有利誤認表示を行った場合は、100万円以下の罰金を科されます。医療法上の広告規制と異なり、懲役刑は定められていません。

広告規制の相談は弁護士に

過当競争に晒されている医療機関では、攻めた広告で患者を集めたいという思いもあるかもしれませんが、広告規制に違反して公表されてしまえば、信用を大きく損なってしまいます。

そうならないためにも、広告の適法性に関する事前のチェックが重要となります。
当事務所では、医療機関の広告の法律問題に注力しております。広告規制が気になる場合には、ぜひ当事務所にご相談下さい。

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