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【債権回収】医療費の未収金への対策とは?病院・クリニックができる予防策を解説

2024.03.14

医療費の未収金は、多くの病院・クリニックで課題になっていると思います。未収金は1件当たりの金額が少なくても、それが蓄積されると経営を圧迫する要因になることもあります。

ひとたび未収金が発生すると、それを回収するために相当の労力と時間がかかりますので、極力未収金を発生させないことが経営上重要になってきます。そこで、今回は未収金を発生させないための予防策を見ていきたいと思います。

病院・クリニックができる未収金の予防策

預り金(入院保証金)

入院保証金は入院費の支払いを担保するために、入院の際に患者が医療機関に差し入れる金銭です。

法律上の根拠はありませんが、厚労省の通達で認められています。

 

これにより、患者が未払いのまま退院し、以後連絡が取れなくなるといった事態を防ぐことができます。

また、時間外で会計事務ができないときに、預り金を徴収し、後日清算するといった対応も可能です。

連帯保証

連帯保証契約をしておくと、患者が治療費を支払わない場合、患者に請求することなく、いきなり連帯保証人に請求することができます。

気を付けていただきたいのは、保証契約書が、令和2年4月1日の民法改正に対応しているかどうかです。

入院費のような将来の支払額が定まっていない債務を、一般の方が連帯保証をする場合には、連帯保証人が支払う極度額(上限額)を定めなければならなくなりました。この極度額の定めがなければ、いくら連帯保証人になろうとする方の署名や押印があっても、契約自体が無効になってしまいます。ですので、今一度、入院申込書などの連帯保証人欄に極度額の定めがあるか確認してください。

極度額は、その診療科の平均自己負担額の2倍~3倍程度が目安になります。

連帯保証代行サービス

連帯保証は多くの医療機関で活用されていますが、身寄りのない方にとっては、連帯保証人の候補者を見つけるのが容易ではありませんし、連帯保証人も資力がなく回収できないケースもあります。

そこで、連帯保証人代行サービスを利用する方法もあります。株式会社イントラストが行っている連帯保証人代行サービス「スマホスを利用すれば、患者が医療費を支払えない場合、同社が医療機関に医療費の立替払いをしてくれますので、逐一連帯保証人を要求する手間も省けますし、入院費の回収も容易になります。

ただ、医療機関が一定の保証料を負担する必要がありますので、費用対効果を見積もって導入を検討してみてください。

退院時の誓約書

退院時に入院費の未収金が生じている場合は、患者に誓約書を書かせることも重要です。未払いの医療費は払わないといけないという認識をしっかりと持ってもらいます。

誓約書に、支払期限と14.6%の遅延損害金の定めなどを設けておくことで、患者に心理的プレッシャーをかけられます。

クレジットカード・電子マネー決済

クレジット・電子マネー決済などを導入しておくことで、所持金のない患者にも対応することができます。

また、外国人患者対応としても、有効です。平成30年の観光庁の外国人に対するアンケートでは、医療費が20万円程度となった場合、63%の方がクレジットカードで支払うと回答しています。

参照:観光庁「「外国人観光客の医療等の実態調査」の結果及び観光庁の主な取組

ただし、これらの導入にも手数料負担が伴うので、費用対効果を見積もる必要があります。

口座振替サービス

患者の口座から入院費を引き落とすことで、払忘れや支払額の誤りを防ぐことができるので、未収金化の予防に有効です。

ただ、口座振替の申し込みから引落までに、1~2カ月程度かかる点には注意が必要です。

自動精算機

自動精算機が電子カルテ、レセコンと連携していれば、会計ミスなどを防ぐことができ、未収金化を防止できます。また、自動精算機に未収金患者の管理システムが搭載されていれば、仮に未収金が発生しても、未収金患者の把握と回収の対策が容易になります。

ただし、導入費用が高額で、保守費用もかかることから、費用対効果を見積もったうえで導入する必要があるでしょう。

未収金発生時の回収方法

未収金が発生した場合は、主に次の方法で回収することになります。

基本的な回収方法

未収金の回収は、電話による催促や、催告書などの書面の送付によるのが一般的です。

請求額、支払期限、支払先などを明示して、自発的な支払いを促します。

 

もっとも、再三催告をしても支払がない未収患者に対しては、内容証明郵便による督促状を送付してもよいでしょう。一般的に内容証明郵便は、法的手続に入る前の最後通告の際に用いられるので、裁判を避けたいと思う未収患者からの支払が期待できます。

それでも支払いがない場合には、次のような法的手続きに移ることになります。

支払督促

支払督促とは、債権者の申立てにより、簡易裁判所の裁判所書記官が支払督促状を相手に送達する手続きです。書類審査のみで手続きが進み、裁判所に出向く必要がないので、法的手続きの中でも負担が軽く活用しやすい制度になっています。

支払督促の送達から2週間以内に債務者から異議がない場合、債権者は再び裁判所に申立てを行い、裁判所書記官から債務者に対し仮執行宣言付き支払督促状を送達してもらいます。この送達から2週間以内に債務者から異議がなければ、仮執行宣言が確定し強制執行が可能となります。

債務者にとっては支払督促を無視し続けると強制執行を受けるリスクがあるので、支払督促によって未収患者の自発的な支払いを促すことができます。

ただし、仮執行宣言付き支払督促の送達から2週間が経つまでに債務者から異議を出されてしまうと支払督促の手続きは終了します。この場合、債務者の住所地を管轄する裁判所でしか訴訟ができなくなるので、未収患者が遠方の場合には注意が必要です。

少額訴訟

少額訴訟は、請求額が60万円以下の金銭請求について、原則1回の審理で解決を目指す手続きです。

裁判所に出頭しなければなりませんが、通常訴訟に比べれば短期間での解決が可能です。

通常訴訟

請求額が大きい場合や未収患者側からの反論が予想される場合などには、通常訴訟を選択することになるでしょう。通常訴訟は、審理期間が比較的長く、相当の労力が必要になります。

また、訴訟を適切に進めるには高度な専門知識が要求されるため、弁護士に依頼することをおすすめします。

選択される法的手続きの傾向

簡易裁判所が受け付ける民事事件の件数を類型別にみると、全件数の約4割を占める民事訴訟326,443件)の次に多いのが、

全件数の約3割を占める支払督促232,434件)です。他方、少額訴訟は6,594件と全体の1%程度に留まっています。

(最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報 民事・行政編」から作成)

消滅時効の管理におけるポイント

未収金を放置したままにすると、消滅時効にかかって回収できなくなることもあります。

そうならないように、医療費の消滅時効に関するポイントを押さえておきましょう。

消滅時効の期間

患者に対する診療債権の消滅時効の期間は、従来は3年と定められていましたが、令和2年4月1日の民法改正により5年となっています。 

公立病院においても、患者に対する診療債権は、私債権として民法が適用されます(最判平成17年11月21日)ので、時効期間は5年です。

時効消滅してしまわないように、診療債権がいつ発生したかを明確にして、未収金管理をするようにしましょう。

時効の起算日

では、消滅時効は、いつの時点から進行するでしょうか。

診療債権の場合、消滅時効は「権利を行使することができる時」から進行すると解釈されます。そして、民法では期間を数える際、原則として初日を参入しません(初日不算入の原則)。ですので、診療債権の起算日は、患者に医療費を請求できる日の翌日となります。

例えば、患者が受診した日に医療費を請求できる場合には、当該受診日の翌日が起算日となります。

他方、支払期限を定めて医療費を請求している場合は、その期限到来日の翌日が起算日になります。例えば、患者に対し、支払期限を6月20日とする請求書を、5月1日に渡した場合だと、期限翌日の6月21日が時効の起算日になります。

時効は援用しないと効力が生じない

消滅時効の期限を過ぎてしまった(時効が完成した)場合でも、患者に対して未収金の請求ができなくなるわけではありません。時効が完成していても、患者が消滅時効を「援用」するという意思表示をしなければ、診療債権は消滅しないのです。

もし、患者が時効完成後に、時効の援用をせず未収金を弁済した場合には、患者は消滅時効による利益を放棄したことになるので、後から時効を援用することができなくなります。時効が完成しても弁済してくれる債務者はいますので、あきらめずに請求してみましょう。

消滅時効の進行を阻止するにはどうしたらいい?

消滅時効の進行を止めるための主な手段は、①承認、②裁判上の請求等、③催告の3つです。

①承認

承認とは、債務者が債務の存在を認めること、もしくは債権者に債務の一部を弁済することです。この場合、時効の進行はリセットされ、承認したときから新たに時効が進行します。医療機関としては、これらの承認があったことを証明できるよう、患者から債務確認書や領収書を取り付けておく必要があります。

なお、時効の進行をリセットすることを、「時効の更新」と呼びます。

出典:法務省「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」を加工して作成

 

裁判上の請求、支払督促、民事調停など

裁判上の請求(訴訟提起)、支払督促、民事調停の申立てなどをした場合は、時効が完成しなくなります。

例えば、未収患者を被告として裁判所に訴訟提起をすれば、訴訟中は時効の完成を阻止することができるのです。

これを、「時効の完成猶予」といいます。そして、判決が確定すれば、時効の進行がリセットされて、改めて時効が進行します。

出典:法務省「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」を加工して作成

 

催告

催告とは、債務者に対して書面や口頭で請求することです。催告の場合、催告をした時から6カ月間時効の完成が猶予されます。

催告によって時効の完成が猶予されるのは1度だけですので、何度も催告をして時効の完成を延々と猶予させることはできません。

催告をすれば、6カ月の間に債務者から弁済を受けるか、訴訟提起などの裁判上の請求をしなければ、時効が完成してしまいます。
患者に「請求されていない」と言い逃れをされないように、催告書は配達証明付き内容証明郵便で送付するようにしましょう。

出典:法務省「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」を加工して作成

 

連帯保証と消滅時効

患者に対する主債務が時効により消滅すると、連帯保証債務もそれに伴って消滅します。時効管理を怠ると、連帯保証人にも請求できなくなるので注意してください。では、患者(主債務者)、連帯保証人それぞれに対する更新事由は、他方にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

時効の完成前に、患者の承認などにより主債務について時効が更新された場合には、連帯保証債務も更新されます(民法457条1項)。

他方、時効の完成後に、主債務について時効が更新されても、連帯保証債務は更新されません。

なお、連帯保証人に裁判上の請求をしても、主債務は完成猶予・更新されません(民法458条、441条本文)。主債務が時効消滅すると付随して保証債務も消滅時効してしまうので、連帯保証人だけでなく、主債務者にも裁判上の請求をするなどして時効の完成猶予・更新をするようにしましょう。

 

消滅時効の対策

消滅時効には注意しないといけないと分かっていても、日々の業務に追われていると、うっかり徒過してしまったという事態に陥りかねません。

未収金管理リストに、消滅時効の期限がいつかを明記して、複数のスタッフで確認できるようにしましょう。

 

医療費の未収金に関するご相談は外山法律事務所にご相談ください

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。

当事務所では医療費の未収金に悩む病院、クリニック経営者様に向けた債権回収の対応と、未収金防止に向けた対策のご提案を行っております。

未収金の回収のスキーム構築は、医院内での稼働工数の削減にも繋げていくことができます。

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