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【クレーム】医療機関(病院・クリニック)におけるクレーム対応のポイント|クレーム発生を防止するための対策を弁護士が解説

2024.03.05

診療までの待ち時間が長い、治療結果に不満がある、医師・看護師の態度が気に食わないなど、医療機関におけるクレームは様々なものがあります。診療で多忙の中、クレーム対応まで強いられると、精神的にかなりの負担だと思います。ただ、対応を間違えれば、評判に悪影響が生じたり、訴訟に発展したりと、問題が拡大しかねません。

そこで、今回は、クレーム対応における心構えと、ケースごとの対応のポイントを解説していきます。

 

病院・クリニックにおけるクレームの傾向

病院・クリニックにおけるクレームの具体例

当事務所にご相談いただく医療機関様から実際にお話いただく際には、患者様を中心に下記のようなクレームに悩まれているケースが多くございます。

・診察までの待ち時間が長すぎて、この後の予定に間に合わない。

・受付の態度が気に食わない。

・いつもと違う薬が出されたのに説明がない。

・骨折で入院しているのに誤嚥性肺炎になった。医療ミスがあったのではないか。

 

様々な業種でクレーム対応にお困りのケースは多くございますが、特に医療業界はクレーム対応に追われている事業者様が多い傾向です。

医療現場でクレームが多い原因

患者やその家族は患者の病状に大きな不安を抱えており、精神的な不安定さから、つい感情的になってしまうことがあります。

また、医療は専門性の高いサービスですので、医療従事者にとっては当然のことであっても、患者やその家族は前提知識を持ち合わせていないことがほとんどです。そのため、医療従事者と患者との間で認識のズレが生まれ、これがクレームの原因になることも多いです。

 

クレームの類型ごとの割合

令和4年における東京都の相談窓口において、医療機関の苦情の類型ごとの割合は次のとおりでした。

医療従事者と患者のコミュニケーション不足が最も多く、次いで医療行為・内容に関することと続いています。

コミュニケーションに関すること

(医療従事者の接遇、説明不足など)

38.0%

医療行為、医療内容に関すること

(医療過誤、医療事故に関することなど)

22.3%

医療費に関すること

(保険診療、自由診療、混合診療など)

8.4%
診療拒否 3.8%
入院・転院・退院に関すること 3.7%

個人情報に関すること(カルテ開示を除く)

3.5%

(引用:東京都福祉保健局「令和4年度「患者の声相談窓口」実績報告」)

 

これらのクレームの類型や発生しやすいリスクを把握したうえで、対応策を検討することが重要です。

一般的なクレーム対応のポイント

ポイント①:謝罪

患者からクレームがあったときは、基本的には謝罪をします。謝罪をすることで、

道義的責任を果たしたことになりますし、相手の高ぶった感情をクールダウンさせることも期待できます。

とはいえ、事実関係が十分把握できていない段階で謝罪をすれば、こちらが非を認めたと誤解されかねません。

 

そこで、「ご不満を抱かせてしまい、申し訳ございませんでした。」といったように、相手に不快・不満を感じさせた点に絞って謝罪しましょう。このように謝罪の対象を明確にすれば、医療機関側の責任まで認めたことにはなりません。

その後の調査で、医療機関側に責任が認められる場合には、過失の程度に応じた謝罪をすることが望ましいです。

ポイント②:傾聴

クレーム初期対応としては、傾聴に徹するべきです。相手が立腹していても、話をよく聞くことで、次第に感情が落ち着いていくことも少なくありません。医療機関側に非がないような場面でも、まずは真摯に相手の話を最後まで聞くことが重要です。できれば、個室に案内し、複数名で話を聞き取るようにしましょう。

 

他方で、「あの看護師に限ってそんなミスはしない」などと反論したり、早々に話を切り上げようとすれば、

クレームを悪化させてしまうので、慎重に対応すべきです。

ポイント③:事実と要望の確認

クレームを適切に解決するためには、クレームの背景となる事実関係と相手の要望をできるだけ正確に把握することが重要です。

5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どうした)を意識して聞き取ると、必要事項が漏れなく確認できます。

また、聴き取りの際には、患者の要望や事実関係の要点をメモなどを書き取るとよいでしょう。

相手に誠意を示すことができますし、他の職員と情報共有がしやすくなります。

ポイント④:問題への対処、組織的な対応

事実・要望を確認したら、問題の対処に移ります。

・医療行為の結果に対する不満であれば、時間をとって説明を尽くす。

・接遇に関する問題であれば、丁寧に謝罪をし、改善策を検討する。

このとき、スタッフ一人で対応するのではなく、クレーム内容を院内で情報共有し、組織的に対応するようにしましょう。

一人で対応すると判断を誤ったり、過大なストレスを受けて心身を壊してしまうリスクがあります。

クレームの情報共有ツールを活用したり、クレーム対応チームを構成したりして、

組織的にクレーム対応ができる体制を整備しておくとよいです。

ポイント⑤:不当なクレームの見極め

クレームには、医療サービスの改善につながるものもあれば、過度にスタッフを疲弊させる理不尽なクレームもあります。

不当なクレームは、業務妨害やスタッフに危害が及ぶリスクがあるため、毅然とした態度で臨まなければなりません。

そのため、クレームが不当なものか否かを見極める必要があります

一般に不当クレーム(ペイシェント・ハラスメント)とは、次のいずれかの要素により、職員の就業環境が害されるものをいいます。

①要求内容の妥当性が無い

要求内容が不明確であったり、過剰な要求をしているケースです。

このような場合、主張が不合理に変わることもございますので、要求内容についてしっかりとヒアリングすることが重要です。

②要求を実現させるための手段・態様が社会通念に照らして相当性を欠いている

自分の主張が思い通りにいかない場合、暴力、暴言、脅迫に及んでしまうケースです。

 

不当なクレームの場合には、必ず組織的に対応するようにし、必要に応じて警察や弁護士等の外部機関との連携をとって対処してください。

 

 

ケース別の対処方法

医療事故がきっかけになるケース

医療現場では、どれだけ注意を払っていても、一定の頻度で予期しない重大な合併症や副作用が発生する潜在的なリスクがあります。しかし、患者やその家族にとっては、期待していた結果が得られなかったことに不満が爆発し、クレームになってしまうこともめずらしくありません。

医療機関は、患者に対して診療の結果等について顛末を報告する義務がある(民法656条、民法645条)ため、医療事故に関するクレームがあった場合には、診療を担当した医師が、診療経過や、合併症等の原因、改善の見込みなどを口頭や文書で説明することになるでしょう。

また、患者から診療録の開示要求があれば、これ応じて開示すべきです。診療録の開示請求をむやみに拒否すると、法的責任を負う可能性もあるため、注意してください(大阪地裁平成20年2月21日判決など)。

ただ、医療機関側が医療過誤を認めるまで説明を求めてくる患者もいます。しかし、顛末報告の内容や方法については、医師の専門的な判断が尊重され、事案に応じて適切な方法で行えば足ります(東京高裁昭和61年8月28日判決)。医師が説明を尽くしても患者の理解が得られない場合には、患者からさらに説明を求められたとしても、打ち切りを検討せざるを得ないでしょう。

 

医療事故に関するクレームについては、不適切な対応をとると法的責任につながる可能性があるので、慎重に対処しなければなりません。訴訟に発展しそうなケースでは、早期の段階で弁護士に対応を依頼することも検討してください。

暴力や過度な暴言に及ぶ

暴力や過度な暴言に及ぶクレームは、不当なクレームの代表格です。たとえ患者であっても、暴言や暴力は許されません。

これらは、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)、脅迫罪(刑法222条)、名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、威力業務妨害罪(刑法234条)などの犯罪行為に該当する可能性があります。

万一、身の危険を感じるような暴言・暴力を振るう患者に直面したら、まずは自身や周囲のスタッフ・患者の身の安全を確保したうえで、躊躇なく警察に通報してください。

 

電話口で暴言や脅迫めいた言動を行う患者に対しては、会話内容を録音し、そのことを相手に伝えれば、効果的な牽制になります。会話の当事者間であれば、相手はプライバシーを放棄しているといえ、無断で録音しても基本的には法的問題はありません。

診療に無関係なクレームを繰り返す

スタッフの態度が気に入らないなどと診療に関係のないクレームを繰り返す患者については、診療の継続の拒否を検討することになります。医師には応召義務(医師法19条1項)があり、患者から診察治療の求めがあった場合は、正当な理由がなければ、これを拒むことはできません。ただ、深刻な病状ではない患者が、理不尽なクレームを繰り返す場合には、その患者との信頼関係は破綻しているといえるので、診療拒否もやむを得ないでしょう。

患者の希望する内容の診断書を作成しなかったことへの主張

保険金請求や傷病手当の申請を予定している患者から、希望する内容の診断書を求められた際、これを拒んだり、希望と異なる内容の診断書を作成すると、クレームになるケースがあります。

しかし、患者の求めに安易に応じて虚偽の診断書を作成してしまうと、虚偽診断書作成罪(刑法160条)で立件されたり、保険会社等から損害賠償請求を受けるリスクがあります。

診察をした医師は、患者から診断書の交付を請求された場合、正当な理由がなければその交付を拒むことはできません(医師法19条2項)が、医師の所見と異なる記載まで求められるわけではありません。医学的に根拠のない内容の診断書の作成を断っても、正当理由があるので、医師の診断書交付義務には違反しません。患者からの不合理な診断書の作成要求に対しては、きっぱりと断るべきです。

ネット上の口コミによる誹謗中傷を行う

近年では、クレームがあっても直接スタッフに言わずに、インターネットの口コミサイトに投稿するケースが増えています。ただ、悪質なクレームは、名誉棄損、侮辱などの不法行為を構成しますので、口コミを法的に削除することが可能です。

具体的には、次の手続きをとることになります。

・口コミサイトの問い合わせフォームから削除要請を行う

・裁判所に投稿記事の削除請求を申し立てる

・発信者情報開示請求により投稿者を特定し、直接削除請求をする

これらの問題は、法的な枠組みを踏まえた主張をしなければ認められませんので、弁護士に依頼して対応することをお勧めします。

 

医療機関・クリニックでのクレームを防止するために

院内でのマニュアルの整備

患者からのクレームは、いつ、どこで発生するか予測がつきにくく、全てのスタッフが対応者となる可能性があります。どのスタッフが対応しても、クレーム対応を円滑に実施する必要がありますので、事前に院内のクレーム対応マニュアルを整備し、周知しておくべきです。具体的には、次のような内容を定めておくとよいでしょう。

・クレーム対応者の初動対応方法

・クレーム内容の情報共有の方法

・クレームの類型ことの対処方法

・困難なクレーム対応を外部機関と連携する方法

再発防止策の検討

クレームが発生すれば、リスクマネジメント委員会などでクレームの原因を分析し、スタッフの接遇・医療行為の改善、マニュアルの改訂などを行い、再発防止に努めましょう

インシデントに関連するクレームについては、医療安全対策委員会等と連携をとって再発防止策を検討してください。

院内暴力への対策

近年、患者の医療従事者に対する重大事件が相次いでいます。決して他人事とは思わず、日ごろから、

患者による暴力に対処できる体制を構築しておきましょう。具体的には、次のような対応を検討しておくべきです。

・院内暴力防止啓発ポスターの貼り付け

・防犯カメラの設置

・防犯グッズ(さすまた、護身用催涙スプレーなど)の備付

・警備員の配置

・警察との連携体制の構築

・避難経路の確保  など

 

クレーム対応に関するお悩みは当事務所へ

当事務所では、医療機関からのクレーム対応の相談をお受けしており、事案に応じた解決案をご提案しております。

また、不当要求を繰り返す患者に対しては、弁護士にご依頼いただくことで、法的に解決を図ることが可能となります。

患者のクレーム対応のお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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