偽医師・無資格者による医療行為の法的リスクは?医師法17条を踏まえて解説
近時、医師免許を持たない者が医療行為を行っていたというニュースが相次いでいます。たとえば、医師免許を有していないのに医師を装ってがん治療を施した事案や、医師ではない無資格者が看護師に美容点滴を指示した事案などが報道されています。
医師でない者による高度な医療行為は、患者の生命や健康を危険にさらす重大な問題です。医療機関にとっても、無資格者に医療行為を行わせていると、法的責任を問われるほか、報道によって信用を大きく低下させることになりかねません。
本コラムでは、医師免許のない無資格者が医療行為を行った場合に生じる法的リスクと、医療機関として講じるべき予防策について解説します。
医師免許と医師法17条の意味
医師免許の取得
医師免許は、大学の医学部等を卒業し、医師国家試験に合格すれば、厚生労働大臣により付与されます(医師法2条)。医師免許は更新制ではなく、一度取得すれば原則として生涯有効です。
医師法17条とは
医師法17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定されています。これは医師の医業独占を定めたもので、無資格者の医業を禁止することで患者の生命・身体を保護することを趣旨としています。
医師法17条の「医業」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと、と厚生労働省は解釈しています(令和7年8月15日医政発0815第21号「美容医療に関する取扱いについて」参照)。
たとえば、診察、診断、処方、手術などは、医師でなければ人体に危害を及ぼすおそれが高い医行為とされています。そのため、いくら技能があっても、これらを医師以外の者が行えば医師法17条違反となります。
無資格者が医業を行った場合の刑事責任
科される刑罰の内容
医師免許を持たない者が医業を行った場合、無免許医業罪(医師法17条違反)として、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれらが併科されます。この無免許医業を行った者が医師又はこれと類似する名称を使用した場合には、医師名称使用罪としてさらに刑が加重され、3年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金、又はこれらが併科されることになります(医師法31条1項1号、2項)。なお、「拘禁刑」とは、従来の懲役刑と禁錮刑を統合したものです。
無資格者であることを認識して医行為の指示をした者や、医療機関の医師免許がないことを知りながら雇用して医業をさせた医療機関の管理者についても、無免許医業罪の共犯(刑法60条等)として、刑事責任を問われる可能性があります。
また、無資格者の医行為により実際に健康被害が生じたり、身体への侵襲が大きい医行為をした場合には、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われます。
さらに、医師を装うために医師免許証を偽造すれば有印公文書偽造・同行使罪(刑法155条、158条)に該当し、医師であると偽って患者に治療費を交付させれば詐欺罪(刑法246条1項)にも該当します。
判例紹介(札幌高裁平成20年3月6日判決)
ある救命救急センターでは、責任者である医師が、医師免許を有しない研修歯科医師らに対し、救命救急の臨床研修として、気管挿管・抜管、大腿静脈路の確保およびカテーテル抜去、腹部触診など、医科に属する医療行為を行わせていました。
裁判所は、「いずれも医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為といえる」として、これらの医行為を行っていた研修歯科医師について無免許医業罪が成立すると認定しました。
さらに、歯科医師らに直接指導を行っていた上級医や、研修内容を定めて実施させていた救命救急センターの責任者についても、無免許医業罪の共同正犯が成立すると認定しました。
たとえ医師であっても、積極的に関与して無資格者に医業を行わせれば、医師法17条違反の共犯として処罰され得るので注意してください。
無資格者の医業による民事責任
民事責任の内容
無資格者が医療行為に従事した結果、患者に健康被害が生じた場合、その無資格者は不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負います。
無資格者の雇用主である医療法人や個人医院の院長、医療機関を監督する管理者についても、使用者責任(民法715条1項・2項)に基づき、無資格者と連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。
判例紹介(東京地裁平成25年12月12日判決)
美容外科クリニックにおいて、医師免許を有しない者が陰茎増大手術等を行い、患者に知覚障害や陰茎の変形、性交時の勃起維持困難といった後遺障害が生じた事案です。
裁判所は、無資格で手術を行った行為は明らかに不法行為に該当するとして、無免許の施術者に損害賠償責任を認めました。
また、クリニックの開設者兼管理者についても、当該施術者の業務執行を監督すべき立場にあったとして使用者責任を認定し、両者に連帯して726万5000円の支払義務があるとしています。
偽医師を採用しないための対策
このように、無免許の医師に医業を行わせれば、医療機関としても法的責任を問われかねません。
しかし、特にクリニックでは、管理医師の急な退職や逝去により、代替医師の確保に迫られることがあります。人材確保を優先するあまり、医師免許の確認が不十分なまま採用してしまい、後に無資格者であったことが発覚する事態もあります。
そのため、医療機関においては、採用段階での医師免許の確認が重要です。無資格者の医療行為を防止するためには、次の点を確実に実施する必要があります。
医師免許、卒業証書等の原本提出
まず、面接や採用手続の段階で、医師免許証と卒業証書の原本を確認するようにしましょう。このことは、厚生労働省の平成24年9月24日付の通知「医師及び歯科医師の資格確認の徹底について」(医政医発0924第1号)でも周知されています。
仮にこれらがなくても、保険診療に携わる医師であれば保険医登録証の提出を求めてもよいでしょう。
実在する医師になりすましていないか確認するために、本人確認書類(運転免許証など)の確認も必要です。
医師等資格確認検索システムで検索
厚生労働省が提供する「医師等資格確認検索システム」を用いて、氏名、性別、生年月日、登録番号、登録年月日を入力して、登録状況を確認することも重要です。
履歴書等の不自然な点を確認する
履歴書などに医師として不自然な記載がある場合には、これまでの診療実績や担当していた業務内容、医療関係者とのつながりなどについて詳細に確認すべきです。また、必要に応じて、前の勤務先へ照会してもよいでしょう。
資格確認が不十分なまま採用した場合の対応
採用段階で医師免許証などの資格確認ができない場合は、原則採用すべきではありません。
しかし、やむを得ず後日資格確認を行うことを条件に採用した場合には、あらかじめ再確認の期限を設定し、その期限までに資格の確認ができなければ解雇等の措置を講じるなどの措置が必要でしょう。
内部通報窓口による医師法17条違反の早期発見・是正
経営者自身が関与していなくても、スタッフが医師法17条違反行為を行えば、患者から刑事告発されるなど、医療機関が法的トラブルに巻き込まれ、社会的信用を大きく損なうおそれがあります。
こうした事態を防ぐためには、院内に内部通報窓口を設置し、外部機関へ通報される前に、違反行為を早期に把握・是正できる体制を整えておくことが重要です。
医師法17条違反による責任を問われたら弁護士に相談
無資格者に医療行為を行わせることは、患者の安全を損なうだけでなく、コンプライアンス違反として刑事責任・民事責任の双方を問われる重大な問題です。医師の採用段階における資格確認の手順や、無資格者による医行為を発見した場合の院内通報制度を整備し、医師法17条違反が生じないような組織作りをすることが大切です。
万一、無資格者による医行為が発覚し、医師法17条違反に問われた場合には、医療機関として法的責任を追及されるおそれが高いといえます。そのため、速やかに弁護士へ相談し、適切な対応方針を検討することをおすすめします。

この記事を書いた人
弁護士:石原明洋
神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

