【倒産】医療機関の経営危機~倒産前と後に取るべき対策を弁護士が解説~

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医療機関の経営動向

医療機関の倒産件数

2023年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産件数は、55件(病院3件、診療所28件、歯科医院が24件)と、過去最多を更新しました。

帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」動向調査(2023年度)」より引用)

コロナ禍では、ゼロゼロ融資や補助金などの支援策により倒産件数は抑えられていましたが、収束後に返済が始まったことで、経営に行き詰まり、倒産件数が増加したのだと考えられます。


ちなみに、「倒産」と「破産」は混同されがちですが、厳密には意味合いが異なります。倒産とは、経営悪化で負債の返済目途が立たなくなり事業の継続が困難になった状態のことです。他方、破産は、倒産状態に陥った場合の債務整理の一手段です。

医療機関の休廃業の件数

倒産状態には至っていない段階で閉院する「休廃業」も、2023年には709件と過去最多となりました。内訳は、病院が19件、診療所が580件、歯科医院が110件であり、診療所と歯科医院の休廃業が顕著でした。

帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」動向調査(2023年)」より引用)

医療機関の休廃業は、経営者の高齢化と後継者不足が主な要因です。今後も高齢化が進行する見込みであり、診療所、歯科医院の休廃業はさらに増加する可能性があります。

医療機関が倒産に至る主な要因

医療機関の経営悪化は、様々な要因が絡み合って生じますが、主なものを挙げていきます。

新型コロナウイルスによる影響

新型コロナウイルスの感染流行は、クラスター発生による業務の休止、患者数の大幅な減少、感染対策費用の膨張などを招き、多くの医療機関の収益を悪化させました。もともと経営が傾いていた医療機関では、新型コロナが追い打ちとなり、経営破綻に至ったケースが少なくありません。

競争環境の激化

都市部では診療所、歯科診療所が乱立し、過当競争を強いられています。多額の融資により積極的な設備投資するも、それに見合う売上が得られず、資金繰りに窮して破綻するケースがみられます。

不正の発覚

診療報酬の不正請求が発覚し、保険医療機関の指定を取り消されたことで、保険診療ができず倒産するケースもあります。また、看護職員の人数を水増しして上位の入院基本料を受給していたことが発覚し、数億円の返還金の支払いを余儀なくされ、倒産に追い込まれる例もあります。

医師不足

医師は医療機関の収益の柱です。しかし、医師の都市部偏在により、地方の医療機関では、医師を十分に確保できず、診療の縮小を余儀なくされ、経営破綻するところもあります。

倒産手続きの種類

では、医療機関が債務の支払いができなくなったときは、どのように債務を整理していくのでしょうか。倒産時の手続きは、下図のとおり、裁判所を関与させない私的整理と、裁判所が関与する法的整理に大別されます。

私的整理

私的整理とは、裁判所の関与なく、金融機関からの債務を対象に、支払猶予や債務免除などをしてもらい、事業の再建を図る手続きです。支払猶予は「リスケ」、債務免除は「カット」などと呼ばれることもあります。
私的整理では、直接、金融機関と交渉して支払条件を変更してもらう方法があります。事前に公認会計士や税理士と検討した事業再生計画案をもとに、金融機関の説得を試みます。


また、以下のような第三者機関の協力を得ながら手続きを進める準則型私的整理という方法もあります。準則型私的整理では、第三者機関の専門家による調査・検証を経た再生計画案のもと協議がなされるので、金融機関の同意を取り付けやすくなります。

  • 地域経済活性化支援機構(REVIC)
  • 中小企業再生支援協議会 ※従業員数が300人以下の医療法人が対象
  • 事業再生ADR     

これらの私的整理は、基本的に、全ての金融機関の同意がなければ成立しません。一部の金融機関が再生計画に懸念を示して同意しなければ、私的整理は不成立に終わってしまいます。
ただ、私的整理では、金融機関以外の関係者に医療機関が倒産状態にあることを知られずに済むので、風評被害による信用棄損を回避できるといったメリットがあります。
そのため、医療機関の倒産時には、まずは私的整理ができないか検討すべきでしょう。

民事再生

民事再生とは、裁判所の関与の下、再生計画案を策定して、事業の再建を目指す手続きです。この手続きのメリットは、私的整理と異なり、債権者の多数決により、全ての債務の金額を圧縮できることです。
他方、民事再生のデメリットは、倒産手続きをしていることが公開されるので、顧客離れや、取引業者から取引打ち切りにより、事業に支障が生じることです。


もっとも、医療機関の民事再生の場合には、人材の流出がない限り医療サービスの質は低下しないため、患者離れは限定的です。また、保険診療を続けている限り、診療報酬により安定的な収入を得られます。医薬品・医療材料の取引業者も、患者に与える影響に配慮して、無下に取引を打ち切ることはしないでしょう。

そのため、医療機関の場合には、民事再生を選択しても、従前どおりに事業を継続できる可能性が高く、一般企業ほどのデメリットは生じないといえます。むしろ、民事再生を選択すれば、債権者の多数決により全ての債務を大幅にカットできるので、私的整理が困難な医療機関においては、有効な経営再建手段といえるでしょう。

破産

破産とは、破産者の資産をすべて処分し、それにより得られた資金を各債権者に配当する手続きです。破産は事業の再生を断念するものなので、破産を選択すれば、医療法人は法人格を失います(医療法55条1項6号)。ただし、医師個人が破産しても、医師資格までは剥奪されません。

破産をすると、原則として事業を停止しなければならないため、医療機関が破産した場合には、診療がストップし、患者に大きな影響を与えてしまいます。そのため、できる限り私的整理や民事再生による事業継続が望ましいのですが、営業利益が見込めず再生計画を立案できない場合には、最終手段として破産を選択せざるを得ません。

ただ、裁判所から事業継続許可を得れば、破産手続開始後も一定期間事業を継続することができるので、その間に、事業の引受けを希望する医療法人が現れれば、診療事業を承継することができます。しかし、事業の譲渡先がなければ、閉院しなければなりません。病院であれば、入院患者の引受先を選定して転院してもらわなければならないなど、近隣の医療機関との調整が必要になります。

倒産するその前に!医療機関が知っておくべき対処法

外部の医療法人にスポンサーに入ってもらう

医療機関の経営知識・実績の豊富な医療法人に、スポンサーに入ってもらう方法があります。医療法人からは資金援助は受けられませんが、経営ノウハウや人材の提供を受けたり、診療事業を買い受けてもらったりすることで経営の再建が期待できます。近時は、グループ展開をしている大手医療法人のМ&Aが活発化しており、有力なスポンサーになっています。

医療ファンドの支援を受ける

医療機関の経営知識・実績の豊富な医療ファンドに、スポンサーとして入ってもらう方法もあります。ファンドは豊富な資金力を生かして、様々な金融スキームを活用し、業績改善を目指します。

一例として、医療機関の保有する施設を買い受け、これを当該医療機関に貸し出すリースバックという手法があります。医療機関は不動産を手放すことになりますが、売却代金により返済原資を確保できるので、財務状態を改善させることができます。

その他にも医療経営専門の人材を派遣して、内部から経営の立て直しを図ることもあります。

医療機関経営におけるお悩みは専門家に相談

自院の財務状況が深刻化した場合、弁護士にご相談いただければ、適切な金融支援策、債務整理をご提案することが可能です。

また、経営危機に直面すると、病棟休止に伴う人員削減、役員報酬の見直し、人件費の適正化のために人事考課の改定などに着手しなければならない場合もあります。これらの場面では、法令を遵守しつつ適切なプロセスを踏まなければ、役員・従業員との信頼関係が悪化しかねないため、弁護士と相談しながら慎重に対応していくべきでしょう。

当事務所では、経営難に瀕した医療機関の事業承継や組織改革に携わった経験を有しています。経営再建に向けて弁護士の活用をお考えでしたら、ぜひ当事務所にお問い合わせください。 

【医療機関の閉院に関するコラムはこちら】

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

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