適時調査における対策と弁護士の活用方法を解説

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保険診療を行う医療機関では、施設基準を満たしておかなければいけません。施設基準に不備があると、厚生局の適時調査で指摘を受け、診療報酬の返還を求められるリスクがあります。

厚生労働省の公表資料によれば、令和5年度の適時調査の結果は次のとおりで、実施件数、返還金額ともに増加傾向にあります。

  • 実施件数:2,748件(前年度から445件増加)
  • 返還額:約32億円(前年度から約24億円増加)

適時調査で入院基本料に関する施設基準の不備を指摘され、数億円の返還金が生じたという報道もされており、適時調査は病院経営にとって非常に重要な手続きといえます。

本コラムでは、施設基準管理士の資格を有する弁護士が、適時調査の概要と対策について解説します。

適時調査とは

適時調査とは、地方厚生(支)局が保険医療機関(主に病院)を訪問し、施設基準の要件を満たしているか実態を調査確認する行政指導です。適時調査は、法令に基づく手続ではなく、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室が策定した適時調査実施要領に基づいて行われています。

この適時調査で施設基準を満たしていないことが判明した場合、届出の変更または辞退が求められ、診療報酬の返還が求められることがあります。また、虚偽の届出や届出内容と実態が相違し、不当又は不正が疑われる場合には、個別指導又は監査に移行することもあります。

適時調査を実施する医療機関の選定方法

原則として適時調査は 1年に1回 の実施を目安としますが、各都道府県内の保険医療機関数に応じて頻度は異なります。

  • 300施設以上の都道府県(例:東京・愛知・大阪・兵庫)
     → 3年に1巡
  • 150~300施設の府県(例:京都・岡山・広島)
     → 2年に1巡

また、施設基準に関する不正等について、厚生局に内部通報があった場合に実施されることもあります。

適時調査の流れ

1 調査実施前

調査日の約1か月前に厚生局から実施通知が届きます。この通知には日時や場所のほか、事前準備書類と当日準備書類についても記載されています。事前準備書類は、調査日の10日前までに厚生局に提出しなければなりません。

これらの書類は、厚生局のウェブページで確認することができます。

事前準備書類の例

  • 保険医療機関の現況(職員現員数、直近1年間の患者数等)
  • 入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類(様式9)
  • 入院基本料等及び特定入院料を算定している病棟(治療室含む)ごとの勤務実績表
  • 勤務実績を確認する際に必要な書類(例:会議、研修、他部署勤務の時間及び出席者がわかる一覧表)
  • 病院報告(患者票)【直近1年分】

当日準備書類の例

  • 入院基本料の施設基準に関する書類一式(例:病棟看護日誌、看護記録、入院診療計画書、意思決定支援に関する指針等)
  • 入院時食事療養の施設基準に関する書類一式
  • 基本診療料及び特掲診療料の施設基準等の届出要件に記載された関係書類一式
  • 保険外併用療養費及び保険外負担に関する書類一式 (例:特別の療養環境の病室が確認できる書類、患者の同意書等)

2 調査当日

調査は指導看護師1名と事務官2名以内で行われ、所要時間は半日(約3時間)が標準です。個別指導と異なり、指導医の立会はありません。

当日は、職員からの手順説明などの後に、調査が開始されます。調査は1~3グループに分かれて関係書類の確認や院内視察が行われます。

適時調査は、原則として厚生労働省の「適時調査 調査書」(調査書)に基づいて実施されます。この調査書は、適時調査を実施する際の施設基準要件の確認事項を示したもので、★印の付された重点確認事項は必ず確認されます。

調査書の各確認事項について、施設基準に適合しているか判定され、調査終了後に担当者から口頭で講評されます。

3 調査実施後

改善報告が必要な指摘事項がある場合、調査実施日からおおむね1か月後に調査結果通知が送付されます。その場合、通知書に記載された指摘事項を改善し、通知から1か月以内に厚生局に改善報告書を提出しなければなりません。

また、届出・運用の内容に適正を欠く部分が認められ、施設基準を満たしていないと判断された場合には、診療報酬の返還が求められます。例えば、72時間ルール違反は、返還対象となります。

この場合、前回の適時調査以降の施設基準を満たさなくなった月の翌月分から返還を求められます。調査が3年に1回の都道府県では、最大で3年分を遡って返還しなければならず、入院基本料などに違反があれば、返還額が数億円に膨らむ可能性があります。

4 指摘事項の例

  • 入院診療計画書の記載漏れ
  • 記載内容が画一的で患者ごとの個性に配慮がない
  • 褥瘡対策チームの医師・看護職員による計画作成・評価が不十分
  • 一般病棟入院基本料に係る月平均夜勤時間数について、72時間を超過している月がある
  • 看護職員の勤務時間の不適切な取扱い(他部署勤務、会議、研修など病棟で実際に看護にあたっていない時間を病棟勤務に算入している等)
  • 病棟看護日誌に勤務状況が適切に記載されていない
  • 看護職員夜間配置加算について、各病棟における夜勤の看護職員が3人以上となっていない
  • 入退院支援加算1について、各病棟に選任で配置されている入退院支援及び地域連携業務に専従する看護師又は社会福祉士が、入退院支援以外の業務を行っていた

適時調査の対策

定期的な自己点検

適時調査直前に慌てなくてよいように、日頃からの施設基準の管理や見直しが欠かせません。そのためにも、定期的に施設基準を自己点検しておくことが重要です。

また、保険医療機関は、届け出た施設基準について、毎年8月1日時点で要件を満たしているか自己点検を行い、その結果を8月31日までに厚生局へ定例報告することが求められています。

こうした自己点検の機会を活用して施設基準の適合性を確認し、不備があれば速やかに是正したり、届出を変更するなどして、施設基準を適正な状態に保つことが、適時調査を乗り切るための重要な対策といえます。

適時調査の事前準備

調査当日に調査官からの質問にうまく答えられないと、施設基準に不備があると判断されかねません。

そのため、職員への事前レクチャーや調査書に基づく模擬調査を行い、当日を想定した準備をしておくことで、適時調査を円滑に進めることができます。

調査中の記録を残す

適時調査で指摘があった場合には改善が求められるため、内容を正確に把握することが重要です。そのためにも、調査時のやり取りは必ず記録しておくべきです。

調査では録音が認められているので、事前に調査官に申し出て録音しておくとよいでしょう。

弁護士が適時調査で果たす役割

返還金の減額交渉

適時調査による返還金は金額が高額ですが、実は弁護士が関与することで返還金を減額できる可能性があります。

施設基準は通知、事務連絡、疑義解釈などで細かく定められていますが、それらの違反が返還事項に該当するかは、法的観点から別途検討されるべきです。弁護士であれば、適時調査実施要領を踏まえつつ、施設基準に関する告示、通知等の規定を解釈し、返還事項にあたるか否かを厚生局と交渉することができます。

調査日の弁護士帯同

適時調査の実施日には、弁護士が帯同することができます

適時調査は基本的に事務職員が対応しますが、日頃から診療報酬について問い合わせをしている厚生局職員から指摘を受けると、委縮して十分な説明ができないことがあります。

しかし、弁護士を帯同させれば、過度な追及を抑止でき、精神的な後ろ盾となります。さらに、調査終了後の講評時において、指摘内容に異議がある場合は、その場で適切に申し出ることも可能です。

当事務所の取り組み

当事務所の弁護士は施設基準管理士の資格を有しており、その知識を生かして厚生局と対等に交渉することができます。適時調査の結果、多額の返還金を求められた場合でも、弁護士にご相談いただくことで返還金が減額される可能性があります。

適時調査や返還金の対応でお困りの方は、一度当事務所へご相談ください。

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

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