迷惑患者への診療拒否はできる?クリニックにおける判断基準と具体的手順

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患者の迷惑行為や危険行為により、「どこまで対応すべきか」「このままでは診療を続けられない」といったご相談は少なくありません。

多くの医療従事者は、患者のためを思い、患者からカスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)にあたる迷惑行為があっても我慢して診療を継続しているのが実情でしょう。

しかし、患者の迷惑行為が一線を超える場合には、スタッフがメンタル不調をきたしたり、他の患者の診療に支障が生じるなど深刻な問題が生じます。このような場合には、患者に対する診療拒否も現実的な選択肢として検討する必要があります。

本コラムでは、診療拒否を実施するための判断基準と、実際に診療拒否を行う際の適切な手順について、実務の観点から解説します。

診療拒否の可否の判断基準

応招義務とは何か

医療機関と患者との関係は、診療契約(準委任契約)に基づくものです。そのため、民法(651条1項)に従えば医療機関側から一方的に契約を解除し、診療を拒否できるようにも思われます。

しかし、医師には応招義務があり、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定められています(医師法19条1項)。この趣旨は、患者に医療へのアクセスを保障して、患者の生命・身体の保護を図ることとされています。

応招義務は公法上の義務であり、正当な事由なく診療を拒否した場合には、戒告等の行政処分の対象となるおそれがあります。

また、応招義務は、医師に患者への診療義務を直接認めるものではなく、患者に受診する権利を与える制度でもありませんが、正当な事由なく診療を拒否した場合には、不法行為(民法709条)に該当し、患者から損害賠償請求を受けるおそれがあります。

そのため、診療拒否を行う際には、応招義務に違反しないよう、正当事由の有無を慎重に検討する必要があります。

診療拒否の正当事由の判断方法

1.厚生労働省通知の考え方

診療拒否の正当事由を判断するにあたっては、厚生労働省の通知(令和元年12月25日医政発1225第4号)が参考になります。

この通知では、最も重要な判断要素は「緊急対応の必要性(病状の深刻度)」とされています。

緊急対応が必要な患者が診療時間内に受診を求めた場合に診療拒否をすると、事実上診療が不可能な場合を除き、応招義務違反になります。

一方で、緊急対応の必要がない患者については、診療時間内であっても、診療拒否の正当性は、次の事情を考慮して比較的緩やかに判断されるとされています。

  • 医療機関・医師の専門性・診察能力
  • 当該状況下での医療提供の可能性・設備状況
  • 他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)
  • 患者と医療機関・医師の信頼関係等

この通知の考え方を整理すると、概ね次のようにまとめられます。

診療時間診療時間
緊急対応が必要
(病状が深刻)
原則として診療拒否は正当化されない
※事実上診療が不可能な場合のみ正当化
原則として診療拒否が正当化される
※法的責任は原則問われない
緊急対応が不要
(病状が安定)
原則として医療を提供する必要があるが、正当事由は緩やかに判断
※考慮要素は上記のとおり
診療拒否が正当化される
※他院紹介等が望ましい

2.信頼関係を破壊する迷惑行為の例

迷惑行為を行う患者の中には、病状自体は安定しているケースも多く見られます。このような場合、迷惑行為により医療機関との信頼関係が失われているといえるときは、カスハラ対応の一環として診療拒否を検討してもよいでしょう。

信頼関係が喪失したと評価できる迷惑行為としては、次のようなものが挙げられます。

  • 医療機関に対して損害賠償請求を繰り返す行為
  • 診療費の不払いを繰り返す行為
  • 退去要請に応じず、警察の介入に至ったケース
  • 暴力行為や威嚇行為を繰り返す行為
  • 「弱みを握っている」などと脅迫し、治療方法を指示してくる行為

ただし、高度専門的な治療を受けており代替できる医療機関がない、医療過疎地域で他に受診先がないなど、診療拒否により適切な医療を受けられなくなるおそれがあるときは、より慎重な判断が求められます。

3.裁判例の考え方

診療拒否を受けた患者が、医療機関に対し、応招義務違反を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求したという裁判例が複数あります。

例えば、東京高裁令和元年5月16日判決では、応招義務の趣旨を踏まえ、診療拒否が不法行為に該当するか否かを、以下の要素を総合考慮して判断するとしています。

  • ①緊急の診療の必要性
  • ②他の医療機関による診療の現実的可能性
  • ③診療拒否をした目的・理由の正当性

これらの考慮要素は、厚生労働省の通達で示されている考え方ともほぼ共通しているといえます。診療拒否の正当事由を判断する際には、通達と裁判例の双方を踏まえて検討するとよいでしょう。

3 診療拒否の具体的な対応手順

では、迷惑行為に及ぶ患者の診療拒否を行う場合、どのような手続で進めるべきでしょうか。

以下では、一般的なクリニックを想定し、実務的な対応手順をみていきます。

① 事実関係の把握

まず、患者の迷惑行為に関する事実関係を整理します。あわせて、患者による迷惑行為の内容や、その証拠(録音、録画、スタッフの記録等)の有無を確認します。

これらの事情を踏まえ、上記の厚生労働省の通達や関連する裁判例を参照しつつ、診療拒否に正当事由が認められるかを慎重に検討します。

② 警告の実施

一般的には、対象患者に対し、再度迷惑行為があった場合には診療拒否を行う旨を記載した警告書を送付します。診療拒否は患者にとって大きな負担となる場合もあるため、できる限り改善の機会を与えることが望ましいです。

患者が同意する場合には、今後迷惑行為を行わない旨の念書に署名させてもよいでしょう。それにもかかわらず迷惑行為が繰り返される場合には、診療拒否の正当性を補強する事情となります。

ただ、診療の継続を認めると医療機関側に重大な不利益が生じる場合には、いきなり診療拒否をすることもあります。

③ 診療拒否の実施

診療拒否を実施する場合には、患者に対し、その旨を明確に通知します。

通常は、診療拒否の理由を記載した通知書と紹介状を患者宛に送付します。

通知を無視して来院する事態に備え、通知書の写しを受付で共有・保管しておくべきです。

それでも来院し、迷惑行為を繰り返すのであれば、警察への通報等の対応を検討せざるを得ません。

なお、診療拒否をした場合であっても、その患者からのカルテ開示には適切に対応する必要があります。

診療拒否をする場合は弁護士に相談すべき

診療拒否は、カスハラ患者に対する強力な対抗策となります。しかし、実際に実施するにあたっては、応招義務に違反しないか、どのタイミングで行うべきかなど、判断に迷われるケースも少なくありません。
これらの判断には、法的観点からの検討が不可欠であり、弁護士に相談すべきでしょう。

患者の迷惑行為により、院長やスタッフが疲弊し、診療体制に重大な支障が生じている場合には、適切な手続を踏んだ診療拒否を行うことで、問題が解決するケースもあります。

当事務所では、迷惑行為に及ぶ患者に対する診療拒否対応について、多数の実績があります。迷惑行為に及ぶ患者の診療拒否を検討されている場合には、ぜひ当事務所にご相談ください。

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。医療経営士1級、診療報酬請求事務能力認定、施設基準管理士。厚生局対応、医療過誤、労務紛争、未収金回収、口コミ削除、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件に対応。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向けの法的支援に尽力している。

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