【個別指導】病院・クリニックにおける個別指導の注意点とは?厚生局からの指導で対応すべきことを弁護士が解説

  • コラム
  • 個別指導帯同

厚生局から個別指導の実施通知が届くと、何を指摘されるのか、どのような準備をして臨めばいいのか不安を感じるのではないでしょうか。個別指導は、診療報酬請求の算定に不備があれば診療報酬を返還しなければならず、不正請求とされれば保険医療機関の指定を取り消される可能性があるため、医療機関の経営に重大な影響を与えます。

では、この個別指導をどのようにして乗り切るべきでしょうか。個別指導を受けるにあたってのポイントを見ていきたいと思います。

厚生局からの個別指導とは

個別指導の概要

地方厚生局の個別指導は、患者・職員・審査支払機関から情報提供がある場合や、前回の新規個別指導で「再指導」とされた場合、集団的個別指導の翌年度以降も高点数保険医療機関に該当する場合などに実施されます。

個別指導は、厚生局の会議室などで面接形式によって実施されます。指導後に「概ね妥当」、「経過観察」、「再指導」、「要監査」のいずれかの結果通知がされ、レセプトの不備が明らかになれば、自主的に診療報酬を返還することになります。

不正請求などが疑われ「要監査」とされれば、監査に移行し、注意、戒告、保険医登録・保険医療機関指定の取消処分などの行政措置がとられます。

個別指導等の実施件数、取消の状況

令和4年度の保険医療機関(医科、歯科、薬局)への個別指導、監査等の実施件数は、次のとおりです。新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきたことから増加傾向にあるようです。

実施件数対前年度比
個別指導1,505件455件
新規個別指導6,742件2,289件
適時調査2,303件2,270件
監査52件1件

また、令和4年度の保険医療機関等の指定取消等の状況は次のとおりです。指定取消等の端緒は、保険者、医療従事者、医療費通知に基づく被保険者等からの情報提供が大半を占めています。

実施件数対前年度比
保険医療機関などの指定取消等18件8件
保険医等の登録取消等1人2人

参照:厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第579回)議事次第

実際にどんなことが行われている?個別指導の実態を解説

個別指導の方法

地方厚生局から指導日の1か月前に指導の実施通知があり、指導日の1週間前に20名分、前日に10名分のレセプトが指定されます。

当日は、指導医療官から、レセプトをもとに、診療報酬点数表上の算定要件を満たしているか、カルテに必要事項が記載されているかなどの指摘をされ、保険医はカルテを確認しながら回答していく形で進められます。実施時間は2時間程度です。

指導後に、指導医療官から口頭で講評があり、後日、指導結果通知が送付されます。

医療機関・クリニックが対応すべきこと

指導日の概ね6カ月前の連続する2か月分のレセプトが指導対象になるため、指定された患者20名が来院した月を抽出し、その間のレセプト、カルテ等を踏まえて想定問答などの事前対策を講じます。

カルテ記載に不備がある場合、指導日までの加筆・修正は違法ではありませんが、漫然と記載すると改ざんと疑われかねません。カルテの修正・補充記載をする場合には、必ず記載日時、記載者などを明示してください。

指導当日は、厚生局から指示された持参物を必ず持参してください。個別指導時には弁護士の帯同が認められていますので、同席する弁護士と必要に応じて相談しながら対応するのが良いでしょう。また、弁護士が帯同するだけで、高圧的な指導を牽制することができます。指導時の対応に不安であれば、個別指導に知見のある弁護士に帯同を依頼することをおすすめします。

個別指導による主な指摘事項

カルテ

カルテの記載は、診療報酬請求の根拠になるものですので、必要十分な記載が求められます。

指摘例

  • 医師による日々の診療内容の記載が極めて乏しい
  • 医師の診察に関する記載がなく、「薬のみ」、「do」等の記載で投薬等の治療がされている。
  • 保険診療のカルテと、保険外診療のカルテを区別して管理していない。

傷病名

傷病名によって算定の可否が規律されている点数項目が多いため、傷病名は病状に見合った適切妥当な記載が必要です。

指摘例

  • 実際には「疑い」傷病名であるにもかかわらず、確定傷病名として記載されている。
  • 長期にわたり急性疾患等の傷病名をつけている。
  • 検査、投薬等の査定漏れを回避するために、医学的な診断根拠のない傷病名(レセプト病名)をつけている。
  • 傷病名の開始日、終了日又は転帰の記載がない。

診療報酬請求算定上の指摘事項

1.初診・再診料

  • 診療中の患者に対して、新たな傷病の診断をして初診料を算定する
  • 外来管理加算について、患者から聴取事項や診察所見の要点についてカルテに記載していない。
  • 時間外加算について、受診時間の記録がカルテ等から確認できない。

2.入院基本料・加算、特定入院料

  • 入院診療計画を策定していない。
  • 退院支援計画書を作成せず、また患者に交付せず入退院支援加算を算定している。
  • 予定入院の患者であるのに救命救急入院料を算定している。

3.医学管理料

  • 指導内容や治療計画など、各医学管理料の算定要件になる事項がカルテに記載されていない。
  • 診療情報提供料Ⅰについて、交付した文書の写しがカルテに添付されていない。
  • 薬剤管理指導料Ⅰについて、算定対象外の薬剤について算定している。

4.在宅医療

  • 往診料について、定期的に患家に赴いて診療した場合に算定している。
  • 在宅患者訪問診療料について、訪問診療の計画及び診療内容の要点や、診療場所、診療時間がカルテに記載されていない。

5.投薬・注射、薬剤料等

  • 投薬の必要性、判断等についてカルテへの記載が不十分である。
  • ビタミン剤の投与について、必要かつ有効と判断した趣旨が具体的にカルテに記載されていない。
  • 必要性の乏しい抗不安薬、睡眠薬の3種類以上の併用が行われている。
  • 注射が必要かつ有効と判断した趣旨がカルテに記載されていない。
  • 関節腔内注射について、医学的必要性、有効性の評価がされないまま、長期間漫然と実施されている。

6.処置・手術

  • 消炎鎮痛等処置について、医学的な必要性、有効性の評価がなされておらず、長期間漫然と実施されている。
  • 皮膚科軟膏処置について、処置の実施範囲に関するカルテの記載が不十分である。
  • 手術記録をカルテに適切に記載していない。
  • 創傷処理のデブリードマン加算にあたり、手術の操作についてカルテの記載が不十分である。

7.検査・画像診断

  • HbA1cをスクリーニング目的で実施している。
  • 症状等のない患者の希望に応じて腫瘍マーカーを実施している。
  • 腫瘍マーカー検査について、診察、他の検査・画像診断等の結果から、悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者以外の者に対して実施している。
  • コンタクトレンズ検査に関わる判断のカルテへの記載が不十分である。
  • 外来迅速検体検査加算について、当日中に結果説明と文書による情報提供を行っていない。
  • 単純X線、CT、MRI等について、カルテに診断内容の記載がない。

8.リハビリテーション

  • 機能訓練について、開始時刻、終了時刻が記載されていない。
  • 疾患別リハビリテーションについて、リハビリテーション実施計画書が作成されていない。

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個別指導後の対応

改善報告書の提出と自主返還

個別指導後に、厚生局から改善報告書の提出と診療報酬の自主返還を求められることがあります。改善報告書には、厚生局からの指摘事項に対する改善方針を記載することになります。

自主返還は、診療報酬請求に不備がある場合に、1年間さかのぼって指摘事項に関する全例を自主点検し、受領済みの診療報酬を返還する手続きです。ただ、返還対象に合理的理由がない場合には、返還の必要はありません。弁護士に個別指導に関する依頼をしていれば、弁護士が代理人として厚生局と返還金に関する協議をすることも可能です。

監査について

不正請求、不当請求が疑われ「要監査」とされると、事前に診療報酬明細書による書面調査、患者に対する実地調査などが行われます。そして、監査の実施が決定されると、監査の日時・場所、出席者、準備する書面等が記載された監査実施通知書が送付されます。

監査は、基本的に地方厚生局において実施され、不正・不当の疑いがある診療報酬請求について事実関係の説明や弁解が求められます。

監査の結果、次のいずれかに該当すると判断されると、保険医療機関の指定取消及び保険医の登録取消の処分を受けます。

  1. 故意に不正又は不当な診療を行った
  2. 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行った
  3. 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行った
  4. 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行った

保険医療機関指定、保険医登録の取消処分を受ければ、5年間は再指定・再登録が制限され、実質的に医業ができなくなります。

監査においても弁護士が帯同することが認められます。監査は、取消処分等の行政処分を念頭に置いた手続きですので、取消処分を争うことを想定し、事前に弁護士に依頼して対策を講じておくのがよいでしょう。

不正請求の例

監査の対象になる不正請求の例としては、次のものが挙げられます。

①架空請求

実際に行っていない保険診療を行ったものとして請求すること

例)当月受診のない患者について、前月と同内容の診療をしたものとして請求

②付増請求

実際の行った保険診療に行っていない保険診療を付け増して請求すること

例)1回の診療に対して再診料を2回請求した。

③振替請求

実際に行った保険診療を保険点数の高い別の診療に振り替えて請求すること

例)実際は50㎠の創傷処置を500㎠として請求

④二重請求

自費診療として患者から費用を受領しているにもかかわらず、同診療を保険診療したとして保険請求すること

例)セラミック歯冠補綴物の製作・装着して患者から費用徴収したにもかかわらず、保険適用の全部金属冠を製作・装着をしたとして請求

個別指導と適時調査の違い

地方厚生局は、請求算定上の指導だけでなく、施設基準に対する調査も行います。これを施設基準の適時調査といいます。適時調査では、厚生局の職員が医療機関に訪問し、院内の巡視、書類の点検などにより、届出内容が実態と適合しているか調査されます。

調査の結果、所定の人員配置基準、設備基準を充足していなければ、診療報酬請求の前提を欠くことになるため、診療報酬を返還しなければなりません。入院基本料関連の施設基準では、不備があれば返還金が多額になるおそれがあり、経営に大きな支障を及ぼしかねません。

この適時調査も、時として調査員から高圧的な態度をとられ、十分な対応ができなくなることもあります。適時調査にも弁護士帯同が認められていますので、対応に不安がある場合についても、弁護士に帯同を依頼するとよいでしょう。

病院・クリニックが厚生局の個別指導で注意すべきこと

普段のカルテの記載

カルテの記載は診療報酬請求の根拠となりますので、日ごろから診療の都度適切な記載が必要になってきます。業務多忙で、カルテ記載の時間が十分とれないといった事情もあると思いますが、メディカルクラークにカルテ入力を代行してもらうなどの対策をすべきでしょう。

個別指導対策

個別指導の準備を怠れば、当日に弁解すべきところを弁解できなかったり、不用意な発言をしたりして、指導官に悪印象をあたえかねません。個別指導の実施通知が届いたら、できるだけ早く個別指導に対応できる弁護士などに相談して、入念な準備を行いましょう。

また、指導後に自主返還を求められた際、返還項目が適正か検討し、合理的理由がなければ厚生局と協議すべきでしょう。

個別指導への対応に関するご相談は外山法律事務所へ

ここまで、個別指導について対応方法として注意すべきポイントを解説いたしました。日々の業務から監理を徹底することが、結果として個別指導への対策にも繋がっていきます。

当事務所には、診療報酬請求事務能力認定試験の有資格者である弁護士が在籍しておりますので、個別指導の事前・事後の対策、当日の帯同まで円滑にサポートが可能です。

具体的な内容につきましては、ぜひ無料相談をご活用いただきお気軽にご相談ください。

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

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