医療機関の承継・M&Aにおける仲介・FA契約の注意点
病院・クリニックの承継・M&Aを行う場合、多くのケースでM&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)に依頼することになります。
もっとも、仲介やFAに依頼した医療機関から、次のようなご相談を受けることが少なくありません。
- 無事にM&Aが成立したが、仲介会社の成功報酬が想定以上に高額だった
- 最終契約を締結した後に承継が実現しなかったのに、多額の報酬を請求されて対応に困っている
- 仲介会社を切り替えて医療法人を売却したが、以前の仲介会社から自社が紹介した相手だと主張され、報酬請求をされた
多くの病院・クリニックにとって、M&A仲介会社等とアドバイザリー契約を締結する機会はそう多くありません。そのため、提示された契約書の内容を十分に検討しないまま署名してしまうケースも見受けられます。
しかし、仲介業者やFA業者との契約内容次第では、せっかくM&Aが成立したにもかかわらず、仲介会社とのトラブルに発展するおそれもあります。
そこで本コラムでは、医療機関がM&A仲介会社やFAとアドバイザリー契約を締結する際に、特に注意すべきポイントを解説します。
M&A仲介とFAの違い
仲介は、売主・買主の双方から依頼を受け、M&Aの成立に向けて助言や支援を行います。主な業務は、買主候補の探索・紹介(マッチング)、譲渡価格やスキームに関する助言、スケジュールやデューデリジェンス(DD)の調整、各種資料・契約書の作成など、M&Aの成立に向けた支援を行います。
これに対し、FA(フィナンシャル・アドバイザー)は、売主または買主のいずれか一方のみから依頼を受け、M&Aの成立に向けた助言・支援を行います。
仲介会社やFAに業務を委託する際には、業務内容や報酬を定めたアドバイザリー契約を締結しますが、これらを規律する法律上のルールはないため、契約内容の妥当性を個別に検討しなければなりません。
M&A仲介・FAの手数料の注意点
手数料の仕組み
主な仲介・FAの主な手数料体系は、次の通りです。
・着手金(仲介契約・FA契約締結時に支払う)
・月額報酬(毎月一定額を支払う)
・中間金(例えば基本合意締結時等に支払う)
・成功報酬(M&A実行後などに支払う)
これらすべてを請求する業者もあれば、成功報酬のみの完全報酬制を採用する業者もあります。
成功報酬(レーマン方式)
成功報酬を算定するときは、一定の基準額(譲渡額、純資産額、移動総資産額など)を基準に、レーマン方式の手数料率に従って算定する場合が多いです。
報酬額=基準額×手数料率
【レーマン方式手数料率早見表】
| 取引額 | 手数料率 |
| 5億円以下 | 5% |
| 5億円超~10億円以下 | 4% |
| 10億円超~50億円以下 | 3% |
| 50億円超~100億円以下 | 2% |
| 100億円超 | 1% |
レーマン方式の基準額に要注意
問題となりやすいのは、成功報酬をレーマン方式で算定する際に、「何を基準額とするのか」という点です。
主な3つの基準額
- ① 譲渡額(譲受額)
買主が売主に支払う対価を基準額とする方法です。譲渡契約書に譲渡額が明記されている場合には、原則として、その金額を基準に成功報酬を算定します。
ただし、譲渡対価には、金銭の支払額だけでなく、旧院長への役員退職慰労金の支払額など、実質的な対価が含まれる場合があります。
- ② 純資産額
貸借対照表上の「資産」から「負債」を控除した残額(純資産)を基準額とする方法です。もっとも、簿価ではなく、時価に引き直した含み益を考慮した「時価純資産」を基準とする場合もあります。
- ③ 移動総資産額(譲渡額+負債)
譲渡額に負債額を加えた金額を基準額とする方法です。
この場合の「負債」についても、借入金のみを対象とする方法もあれば、未払金などを含むすべての負債を対象とする方法もあり、契約内容によって異なります。
基準額と報酬額との関係
①の譲渡額を基準とする場合に比べ、③の移動総資産額を基準とすると、成功報酬が大幅に高額になることがあります。
例えば、医療法人の譲渡額が1億円、負債額が1億円の場合を考えてみます。
- 譲渡額(1億円)を基準に、報酬率5%を適用すると
→ 手数料は500万円となります。 - 移動総資産額(譲渡額1億円+負債1億円=2億円)を基準に、報酬率5%を適用すると
→ 手数料は1,000万円となります。
このように、基準額の違いにより、報酬額には大きな差が生じるため、どの基準額が採用されているか十分に確認してください。
最低成功報酬を要確認
成功報酬については、最低報酬額が設定されていることも少なくありません。
そのため、最低成功報酬額がいくらに設定されているのかについても、事前に確認しておく必要があります。
契約前のシミュレーションと比較検討が重要
手数料体系や報酬の算定基準は、仲介会社やFA会社によって大きく異なります。契約書を一見しただけでは理解しにくい、複雑な計算方法が採用されていることも少なくありません。
「想定していたより手数料が高かった」という事態を避けるためにも、仲介・FAの契約前に次の確認をしましょう。
- 想定売却価格を前提として手数料額をシミュレーションしてもらう
レーマン方式を採用している場合でも、基準額の取り方によって手数料は大きく変動します。具体的な金額ベースで確認することが重要です。 - 他社の手数料体系や報酬額と比較検討する
1社のみの提示条件で判断するのではなく、複数社の条件を比較することで、報酬水準や算定方法の妥当性を客観的に把握できます。
成功報酬の支払時期
最終契約書における成功報酬の支払時期に関する規定は、一般的に、次のいずれかの時点とされます。
- 最終契約の締結時
- M&Aの実行(クロージング)時
M&Aでは、最終契約の締結からクロージングまでの間に、一定の期間を空けるのが通常です。最終契約が締結された後であっても、クロージングまでの間に、承継の前提条件が充足されなかった場合や、当事者の一方に契約違反があった場合などには、取引が白紙となることがあります。
このような場合に、成功報酬の支払時期を最終契約締結時としていると、M&Aが実現していないにもかかわらず、仲介業者やFAから報酬請求をされてしまいます。
そのため、仲介・FAへの依頼者側としては、できる限り成功報酬の支払時期をM&A実行時(クロージング時)とすることが望ましいといえます。
なお、不動産仲介では、売買契約時に報酬を支払う旨の規定がある場合であっても、決済前に解除されたときに、報酬の一部しか認めなかった裁判例があります(福岡高裁那覇支部判平成15年12月25日等)。そのため、成功報酬の支払時期が最終契約時と定められていても、仲介・FAと報酬額について交渉する余地はあるといえます。
テール条項の注意点
テール条項とは、アドバイザリー契約が終了した後であっても、一定期間内に仲介会社・FAが紹介した相手方との間でM&Aが成立した場合、売主に成功報酬の支払義務が生じるとする条項です。
| 【例】「本契約の有効期間終了後3年以内に、受託者(仲介・FA)が委託者(医療機関)に紹介した候補先との間で本件承継に関する最終契約が締結された場合には、委託者は、本契約に規定する報酬を支払わなければならない。」 |
もともとは、成功報酬の支払いを免れるために、承継成立直前になって仲介・FAとの契約を解消し、当事者間で直接最終契約を締結する不当な行為を阻止するための条項です。
もっとも、テール条項の期間が長すぎたり、「紹介した候補先」の対象範囲が過度に広いと、正当な理由でアドバイザリー契約を解消した売主であっても、新たな仲介・FAから紹介された候補者がテール条項の対象になるのではないかと懸念することになり、売却活動を過度に制限させられるおそれがあります。
この点について、中小企業M&Aガイドラインでは、テール条項に関し次のような指針が示されています。
- テール期間は、最長でも2~3年を目安とする
- 対象範囲は、実際に関与・接触して紹介された買受候補に限定する
具体的には、少なくとも秘密保持契約(NDA)を締結し、企業案件書を提供した買受候補先に限定すべきです。仲介・FAから示されたロングリストやショートリストに掲載しただけの候補先まで対象に含めると、過度にテール条項の範囲が広範になるので注意してください。
専任条項の注意点
専任条項とは、アドバイザリー業務の委託期間中、並行して他の仲介・FAに依頼することを禁止する条項です。
| 【例】「委託者は、本件業務およびこれと経済的効果を同一にする業務について、受託者以外の者に対して重ねて依頼することはできない。」 |
この条項の趣旨は、複数の仲介・FAが同時に同一の買受候補者へ打診することにより、買受候補者の心証が悪化したり、売却情報が不必要に拡散したりすることを防止する点にあります。
もっとも、売主が依頼している仲介・FAから十分な買受候補者が提示されないなど、業務内容に疑問を感じている場合にまで、他のM&A業者に意見を求めることができないとすると、現在の仲介・FAの助言や業務内容の妥当性を検証することができなくなってしまいます。
そのため、依頼者としては、専任条項を設ける場合であっても、以下の点を確認すべきです。
- セカンドオピニオンが認められているか
- 専任条項付きの契約期間が不当に長くないか
- 中途解約条項が過度の制限されていないか
なお、中小企業M&Aガイドラインでは、専任条項を設ける場合の契約期間について、6か月から1年程度を目安とすることが示されています。
また、アドバイザリー契約の中には、中途解約をすると違約金が発生する条項などもあり、修正が必要になることがあります。
業務範囲の確認
仲介契約やFA契約では、契約書に依頼する業務の範囲が定められています。ただし、その内容や範囲は、仲介会社やFAごとに大きく異なります。
例えば、業務範囲としては、次のような段階が考えられます。
- 売主側・買主側のマッチングまで
- 出資持分譲渡や事業譲渡など、具体的なスキーム(手法)の策定まで
- デュー・ディリジェンス(DD)まで
- クロージング(決済の立会等)まで
- PMI(M&A実行後の事業統合に伴う作業)まで
これらのうち、どこまでの業務が契約に含まれているのかを確認したうえで、その内容が支払う手数料に見合ったものかを十分に検討することが重要です。
疑問や不安がある場合には、他の専門家や仲介・FAにセカンドオピニオンを求めることも検討しましょう。
弁護士によるリーガルチェックの重要性
仲介会社やFAとのアドバイザリー契約は、仲介・FA側に有利な内容となっていることが少なくありません。後々のトラブルを避けるためにも、少なくとも本コラムで挙げた注意点は、契約締結前に確認しておくべきです。
もっとも、アドバイザリー契約の内容は仲介・FAごとに異なり、条項の文言も複雑なものが多いため、日常的に契約実務に携わっていなければ、適切に検討することは容易ではありません。
そこで、アドバイザリー契約については、締結前に、弁護士にリーガルチェックを依頼することをおすすめします。弁護士のリーガルチェックを受ければ、契約上のリスクを事前に把握し、不利な条項を修正するよう求めることができます。
当法律事務所では、事業承継やM&Aの仲介・FA業務の実績が多数あり、アドバイザリー契約を頻繁に取り扱っております。
仲介・FAとの契約内容に少しでも疑問を感じた場合には、契約締結前に、ぜひ当事務所へご相談ください。

この記事を書いた人
弁護士:石原明洋
神戸大学法科大学院卒。医療経営士1級、診療報酬請求事務能力認定、施設基準管理士。厚生局対応、医療過誤、労務紛争、未収金回収、口コミ削除、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件に対応。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向けの法的支援に尽力している。

