医療法人のМ&Aにおける法務デューデリジェンスの視点

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医療法人デューデリジェンスとは

医療法人の法務デューデリジェンス(以下「法務DD」)とは、M&Aの対象となる医療法人の事業や資産に関連する法的リスクを調査する手続きです。法務DDの結果、重大な法的リスクが判明した場合、M&Aの中止や取引価格の修正が必要になるため、М&Aにおいて重要なプロセスといえます。

では、医療法人の法務DDでは、どのようなポイントが確認されるでしょうか。

法務DDの主なチェックポイント

1 社員・役員の特定、出資持分の確認

社団医療法人の実質な支配権は社員に帰属しており、社員の交代によって経営権の承継が行われます。そのため、社員の特定は重要です。

例えば、社員が2名であることを前提に、旧社員の退社、譲受側社員の入社を社員総会で決議したものの、その後に別の社員がもう2名存在していたことが判明すれば、先の社員総会決議は定足数を欠いて無効となり、経営権の承継に失敗してしまいます。このような事態を避けるためにも、現在の社員を正確に特定することは、医療法人の法務DDの一丁目一番地といえるでしょう。

社員名簿だけでは過去の社員の変遷を把握できないため、社員総会議事録、退社届、定款等を確認し、過去の社員の異動履歴や、選任・退任手続に問題がないかを調査する必要があります。

同様に、理事の地位についても、社員総会議事録や辞任届などを確認し、過去の専任、退任、辞任手続きに問題がないかを調査します。

さらに、出資持分のある社団医療法人の場合、社員の交代に加えて、出資持分の譲渡も行われます。そのため、出資持分が誰に帰属しているかを確認することが重要です。たとえば、過去に出資持分権者が死亡している場合、出資持分権は相続により承継されるので、遺産分割協議書、遺言書などを確認して、現在の出資持分権者を特定しなければなりません。

2 不動産の権利関係の確認

医療機関の敷地や建物の権利関係に問題がないかを確認することも重要です。

不動産登記等を確認して、医療施設の敷地となる土地のすべてが医療法人の所有か、共有や差押えなど使用・処分を制約する権利関係がないかなどを確認します。

建物については、建築確認証、検査済証などを確認します。医療施設の増改築を行っている場合には、工事業者との紛争がないかも確認します。

テナントを賃借して運営している医療機関の場合、オーナーと定期借家契約を締結していれば、契約終了時点で立ち退かなければなりません。ですので、賃貸借契約書の内容や、賃貸期間などを確認する必要があります。

また、賃貸借契約書に、実質的な支配権が変更されたときに賃貸借契約を解除する条項(チェンジオブコントロール)が入っているケースもあります。この条項がある場合、オーナーから賃貸借を継続する旨の合意を取り付けなければ、承継を実行しても立ち退きを求められる恐れがあるので、確認が必要です。

3 労務問題の確認

医療業界は長時間労働の傾向があり、労働時間の管理方法や未払残業代の有無が重要なチェック事項となります。始業・終業時刻の記録がタイムカード、ICカード、ビーコン等の客観的な方法により行われておらず、労働時間を正確に把握できていない場合や、サービス残業が常態化している場合には、未払賃金が発生するリスクがあります。

その他、労働組合との労働協約や労働紛争の有無、過去の懲戒処分の有効性なども確認します。

4 医療事故の有無の確認

医療事故は、賠償金の負担、医療機関のレピュテーションリスク、職員の流出などにつながる問題ですので、理事、職員らから医療事故や医療過誤がないかヒアリングを行ったり、訴状、内容証明郵便などが送付されていないか確認します。また、一定期間のヒヤリハット報告書を確認し、医療安全体制に不備がないかを確認します。

5 各種保険の加入状況の確認

火災保険や医師賠償責任保険、施設賠償責任保険などの損害保険の加入の有無、保険期間、保険料の払込状況等を確認する必要があります。万一、保険未加入であったり、保険の空白期間があれば、医療事故などによる賠償支払義務が生じていても、保険で補償を受けることができません。

6 不正行為の有無の確認

非営利法人である医療法人は、剰余金の配当が禁止されており(医療法54条)、これに違反すれば20万円以下の過料に処され(医療法93条8号)、さらには設立認可取消となるおそれもあります。そのため、他の法人に融資・貸付を行ったり、出資者へ配当をするなどの剰余金の配当に当たる行為がないかを確認する必要があります。

例えば、医療法人がMS法人から近隣相場と比較して著しく高額な賃料で土地建物を借りている場合には、実質的な剰余金配当とみなされる可能性があります。そのため、MS法人がある場合には、医療法人との取引内容を明確にする必要があります。

7 許認可・届出の確認

医療法人の設立認可、診療所・病院の開設許可、保険医療機関の指定など、医業遂行にあたって必要な許認可・指定を確認します。

8 診療報酬請求の問題の確認

診療報酬に問題であれば厚生局による個別指導、適時調査を受けている場合があり、個別指導結果通知書、施設基準調査結果通知書、改善報告書などを確認します。

特に入院診療を行っている病院については、人員配置などの施設基準に不備があれば適時調査により多額の返還金が発生しかねません。適時調査で指摘を受けていなくても、様式9の算定根拠となる勤務実績表と実際の看護職員の勤怠管理表を照合し、看護職員の人員配置に問題がないかなどを確認するのが望ましいです。

医療法人の法務デューデリジェンスは当事務所に

当事務所は、これまで医療法人の法務DD案件を多数手がけてきました。このような豊富な実績を生かし、医療法人の法務DDを的確かつ円滑に実行いたします。医療法人の法務DDの依頼ご検討の方は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

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