医師の不祥事による行政処分とは?処分の流れと弁護士のサポート内容を解説

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令和7年3月、厚生労働省は医道審議会医道分科会の答申を受け、診療報酬の詐欺や看護師への強制わいせつなどを行った医師2人に対し、医師免許の取消処分を決定しました。あわせて医師15人に対する医業停止・戒告処分、歯科医師5人に対する行政処分も決定されています。

医師という職業には、高い倫理観と強い社会的責任が求められています。そのため、重大な不祥事があった場合には、行政処分を受け、医業の継続ができなくなるおそれがあります。これは歯科医師、薬剤師、看護師も同様です。

このコラムでは、行政処分までの流れと、行政処分を回避するための医師がとるべき対応について解説していきます。

医師の行政処分とは

行政処分の対象行為

まず、医師が行政処分の対象となる行為は、以下のとおりです。

  1. 心身の障害により医師業務を適正に行うことができない場合
  2. 麻薬・大麻・あへんの中毒者である場合
  3. 罰金以上の刑に処せられた場合
  4. 医療に関して犯罪や不正な行為を行った場合
  5. 医師としての品位を損なうような行為があった場合

近年の処分対象となった行為の傾向

令和4年2月から令和7年3月までの医道審議会の審議対象事件について、その類型別件数は以下のとおりです。

最も件数が多かったのは、交通事件(道路交通法違反・自動車運転過失致傷罪)です。

次いで、児童買春・ポルノ禁止法違反、不同意わいせつ・性交等罪などの性犯罪が多数を占めています。

さらに、薬物犯罪や診療報酬の不正請求による詐欺罪も多く見られました。

行政処分の種類

これらの不祥事が認められた場合、厚生労働大臣により以下の行政処分が下されるおそれがあります。

戒告

比較的軽い処分ですが、実名報道の対象とされます。ただし、事案が軽微であれば、行政指導としての厳重注意に留まるケースあります。

3年以内の医業停止

処分で定められた期間は、医業を行うことができません。

医師免許の取消し

医師の資格が失効します。ただし、一定の待機期間(刑事罰を受けた場合は最低5年)を経た後、免許再交付申請が認められれば、免許を再取得できる可能性があります。

医師の行政処分までの流れ

行政処分の前段階の流れ(刑事事件)

医師が刑事事件を起こした場合、逮捕・勾留・取調べなどの手続を経て、事案によっては起訴され、刑事裁判で審理されることになります。

裁判の結果、罰金、懲役、禁錮などの有罪判決が下され、それが確定すると、起訴事実や判決内容について、検察庁から厚生労働省へ情報提供が行われます。執行猶予付きの判決であっても、情報提供の対象となります。

医師の行政処分の手続の流れ

①事案報告書の提出要請

厚生労働省から、都道府県を通じて、対象の医師に「行政処分対象事案報告書」が送付されます。これにより、事件の概要や被害者への補償状況の報告が求められます。

②医道審議会による処分区分の決定

提供された情報を踏まえ、医道審議会により処分の種類(戒告、医業停止、免許取消)の大まかな方向性が定められます。

③意見・弁明聴取の通知

都道府県知事から対象医師に、「意見の聴取通知書」または「弁明の聴取通知書」が送付されます。予定される処分の内容や、意見・弁明聴取を実施する日時、場所などが記載されています。

  • 意見聴取 → 免許取消または医業停止が想定される事案です。
  • 弁明聴取 → 医業停止または戒告が想定される事案です。

④意見・弁明の聴取の実施

意見または弁明の聴取は、都道府県の担当部署で行われます。本人のみでの出席も可能ですが、事前に許可を得れば弁護士の同席も認められます。

⑤医道審議会による審議

聴取に基づいて作成された書面は厚生労働省へ送付され、医道審議会において処分方針が審議されます。審議結果は、厚生労働大臣へ答申されます。

⑥処分内容の決定・命令書の送付

医道審議会の答申に基づき、厚生労働大臣が処分内容を決定します

医業停止処分の場合は、停止期間などが記載された命令書が交付され、併せて再教育研修命令書が交付されます。

医師の処分を審議する医道審議会とは

医師に対する行政処分は、厚生労働大臣が単独で決定するのではなく、法律上、医道審議会の意見を聴くこととされています。

医道審議会は30人以内の委員で構成され、日本医師会会長、日本歯科医師会会長、学識経験者などが厚生労働大臣によって任命されます。

医道審議会は、専門分野ごとに分科会が設けられており、医師・歯科医師に対する行政処分に関する審議は「医道分科会」が担当します。医道分科会は年3回程度開催されます。

医師に対する処分の基本的な考え方 

厚生労働省は、医師・歯科医師に対する処分内容の決定にあたって、基本的な考え方を公表しています。

基本的には、刑事裁判における量刑や執行猶予の有無といった判決内容を参考にしつつ、以下の事情を考慮して判断されます。

  1. 医師・歯科医師として当然果たすべき義務違反か
  2. 医師・歯科医師の地位や医療提供の機会を悪用した行為か
  3. 業務外での生命・身体を軽視する行為か
  4. 不正な利益追求行為ではないか

個別の事案についての考え方も示されています。

重い処分になる例

  1. 医師法・歯科医師法違反
     無資格医業、無診察治療などは国民の健康に及ぼす危険が大きいため。
  2. 麻薬・覚醒剤・大麻・向精神薬関係法違反
     薬物の薬効知識を有し、害の大きさを十分認識している医師が違反することは悪質性が高い。
  3. 殺人・傷害
     人の生命・身体を守るべき立場の医師がこれらの罪を犯すことは悪質性が高い。医師の立場や知識を利用した暴行・傷害も重めの処分となる。
  4. 業務上過失致死傷
     明らかな過失による医療過誤や、繰り返し行われた医療過誤など、医師として通常求められる注意義務が欠けている場合は、重めの処分とする。
  5. わいせつ行為
     わいせつ行為は医師としての社会的信用を失墜させる行為であり、特に診療機会を利用したわいせつ行為は悪質性が高い。
  6. 窃盗、詐欺、文書偽造
     医師としての品位を損ない、信頼感を喪失させる行為。特に、虚偽診断書作成罪・使用罪、これを用いた詐欺などは、業務に関連する犯罪であり、医師の信用を失墜させる悪質性が高い行為。
  7. 税法違反(所得税法、法人税法違反など)
     医業収入に関する脱税は、医業の非営利原則を逸脱するもので、職業倫理を欠くものとして重い処分。
  8. 診療報酬不正請求・検査拒否
     保険制度を欺く行為であり、信頼を裏切る重大な不正行為として重い処分。特に、検査拒否は、さらに重い処分。  

軽い処分になる例

交通事故による業務上過失致死傷
 医師業務と無関係な交通事犯は、品位の低下の程度も比較的軽微であり、原則として戒告。ただし、ひき逃げなど悪質な場合は重めの処分。

医師の行政処分に対する弁護士によるサポート内容

不起訴処分の獲得に向けた弁護

刑事事件で有罪判決が確定すると、行政処分のリスクがあるため、まずは不起訴処分の獲得を目指すことが重要です。弁護士に依頼すれば、示談交渉など不起訴に向けた弁護活動を行い、検察官に対して不起訴処分にするよう働きかけます。

また、悪質な診療報酬の不正請求の事案では、保険医の指定取消にとどまらず、詐欺罪で立件され、医業停止処分や医師免許の取消処分を受けるおそれもあります。診療報酬の不正請求の場合、厚生局の個別指導や監査の段階から弁護士をつけることで、早期に適切な対応を検討することができます。

起訴後の通知の回避

仮に起訴されて有罪判決が下っても、軽微な事案であれば、検察官に対し、厚生労働省に事案通知を見送るように求めることもできます。

処分軽減の働きかけ

検察官が厚生労働省に情報提供をすれば行政処分に向けた手続きが進行します。

ただ、提供される情報は起訴事実や判決結果などに限られ、医師側に有利な事情は伝えられません。そこで、弁護士に依頼すれば、都道府県による意見・弁明の聴取の前に、医師側に有利な事情を記載した意見書を提出し、処分の軽減を求めることができます。

意見・弁明聴取の当日は、弁護士が代理人として同席し、直接意見を述べることも可能です。意見・弁明の聴取は、医師が自身の言い分を伝えられる最後の機会であるため、弁護士が関与して慎重に対応するべきです。

行政処分を回避・軽減するためにできること            

医師の不祥事に対する行政処分は、医師としての人生を左右する重大な手続きです。そのため、早い段階で弁護士に相談し、適切な対応をとることが重要です。

当事務所では、刑事手続きだけでなく、行政処分に向けた対応にも取り組んでいます。医師の行政処分が気になる方は、是非ご相談ください。

弁護士:石原明洋

この記事を書いた人

弁護士:石原明洋

神戸大学法科大学院卒。
病院法務に特化した外山法律事務所に所属して以来、医療過誤、労働紛争、未収金回収、口コミ削除、厚生局対応、M&A、倒産、相続問題など幅広い案件を担当。医療系資格を持つ弁護士として、医療機関向の法的支援と情報発信に尽力している。

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